21世紀の教育システム

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Karn Academyというサイトをご存知でしょうか?
これはアメリカのNPO団体が運営している学校で学ぶ内容をYouTubeビデオに公開しているサービスです。
小学生レベルから大学レベルの内容を網羅していてかなり高度です。
TED.comでのプレゼンテーションはこちらです。


TED.com ビデオを使って教育を再発明しよう


このサイトの主催者は現在の教育はあまりに非人間的で学校の都合で行われていると批判します。
Karn Academyでは生徒は自分のペースで好きなときに好きな勉強ができ、わからないところは何回でもリプレイして見ることができます。
私も学校でわからないところが出てきてだんだんついていけなくなり勉強がいやになった経験があります。
現実的にクラスの全員に理解させるというのは現在のシステムでは不可能でしょう。
でも、学校で教える内容がネット上に公開されればそれが可能になりますし、日本や世界の優秀な先生の講義を誰でも見ることもできるようになります。
これは教育システムが革命的に変化する前兆なのではないかと思います。
そこでふと思い出したのが私が以前から持っていた以下のような疑問でした。


なぜ入学試験をするのか
これから勉強するために入学するのになぜ入学試験のための勉強をしなければいけないのか私は明確な回答を聞いたことがありません。
そこで勉強できるくらいの基礎ができてるか見るためだとか学校もキャパシティが限られているので仕方なく選んでいるとか言われることもありますが、私は今までの経緯でそうなっているのだと思います。


もともと選抜試験というのは中国の科挙がその元となっています。
1400年前くらいに中国では隨という王朝が国を支配していましたが、国を治めるために優秀な官僚が求められていました。
しかし、それまでは貴族の子弟が無条件に官僚になっていたため、ばかでも偉い官僚になれるという状況だったのです。
それでは国が乱れると考えた王は試験で優秀な人材を集めることを考えついたのです。
日本でも明治から官僚の選抜を試験で行うようになりましたが、科挙を参考にして作られたようです。
これはいままで血縁でしか選ばれなかったのが、勉強すれば立身出世の道が開かれたということでエポックメイキングなことだったと思います。


しかし、21世紀になってもいまだにその封建時代のやり方を続けています。
いまや世界はグローバル化し、新しい知識がかつてない勢いで考え出されています。
例えば、最近アメリカのスタンフォードがネット上でコンピュータサイエンスの講義をはじめましたが、そこで教えられていることはもう5年前の知識であったりします。
私が働くIT業界では5年といえば2世代ほど前になってしまいます。
つまり、今の教育システムが現代の状況にあっていないということです。


なぜ6334制なのか
また、小中高大と学校を分けるのもなぜかわかりませんでした。
これも歴史上そのようになってしまったようです。
戦前に旧制学校のシステムがあり、戦争に負けてGHQの支配のもと、現在の6334制が決められました。
戦前は高等教育は軍人や官僚を育てるために行われていましたが、戦後はより民主的な色彩が強くなったのだと思います。
学校を分けるのも学校側の都合でそうなっているのでしょう。
つまり、教える内容が上に上がるほど高度になっていくのでそれに見合った人材を配置しなければいけないということです。
これは、工場システムの分業体制と同じで学校の先生は毎年同じことを教え続けることになるため専門化しやすいということだったのでしょう。
しかし、企業を見ればわかるように同じことの繰り返す仕事は機械のほうが低コストでできるためいずれは機械にとって変わられる運命にあります。
教育は人間がやらなければいけないと言われるかもしれませんが、Karn Academyの利用者が学校よりも人間的だと言っていることの意味を考えるべきでしょう。


そして、6334制の最大の欠点は上の学校へあがったときにそれまで生徒が何を学んでいたかという知識が引き継がれないということです。
例えば、小学校から中学校に上がった生徒について中学校の先生はその生徒がいままでどんなことをどんなふうに勉強してきたか全く知りません。
それは、高校や大学でも同じです。
だから、入学試験で選別するということを行う必要が出てきます。
しかし、そもそも学校を分ける必要があるのか、この情報化社会の時代に情報の共有化をなぜ行わないのかと思います。
Karn Academyでは実験として生徒が何を勉強したかの情報をウェブ上で共有するプロジェクトを地域の学校と行っています。
このシステムがあれば学校を分ける必要もなく、そういった学校さえも必要なくなるかもしれません。
自分の学習履歴をもって好きな先生や組織のところへ行って学べばいいと思います。
そう考えると教育機関は最も情報化が遅れている組織かもしれません。


こんなことを考えているとふと新しい教育システムのイメージが思い浮かんできました。
ジャストアイデアですが、思いつきを書いてみます。
まず、6334制をやめ、学ぶフェーズを以下の3つのカテゴリーに分けます。
(タイトルが男性オンリーな感じですが年齢でカテゴリー分けしているだけですので、女性も含まれているとお考えください。)


少年期(5才くらいから12才くらいまで)
この時期は従来の小学校に似た読み書きや計算など基本的な内容を教えます。ただし、かつてのような画一的なやり方ではなく、それぞれの生徒にあったペースでできるように配慮します。まだ子供なのでしつけ的な教育が必要な時期でしょうね。
青年期(12才くらいから20才くらいまで)
この時期は好きなものや向き不向きがだんだん分かってくる時期です。この時期はいろんなことに興味がもてるようにして、自分の好きなことをはやく発見できるように手助けします。
なので、文系理系などに分けることはやめるべきでしょう。
また、テストなどである程度はプレッシャーを与えて学ぶくせをつけてあげることが必要な時期でもあります。
成人期(20才以上)
この時期はもう教わるのではなく自分からテーマを見つけて学べるようにします。そして、いわゆる卒業というのはありません。現代は死ぬまで学び続けないといけない時代です。働きながらでも学べる環境を用意する必要があるでしょう。


また、新しい時代にあった教育システムを作る上で必要なことがいくつか考えられます。

  • IT技術を使った効率化による教育コストの低減

Karn Academyを見てわかるように、動画などの大容量のコンテンツもインターネットによって安価に配信できるようになりました。
また、Facebookなどのソーシャルネットを組み合わせることにより、人と人との出会いを促進することもできるようになりました。
もはや、今までの学校のような建物が必要なくなり、教育コンテンツの共有化や作業の自動化がIT技術によって可能となります。
これにより、劇的なコスト削減が可能となるでしょう。

  • プロフェッショナルスクールの創設 

ただ、従来型のハンズオンで教える組織も必要な分野があります。
例えば医師や特殊技能のエンジニアなど職人的な分野の専門家はある程度は旧型の教育システムでやらないといけないでしょう。
ただ、ハンズオンでなくてもいい部分はITを使ったシステムでかなりコスト削減できるものと推測されます。
また、弁護士や政治家、会計士などの知識だけではなく倫理観が重要となってくる職種も同じようなシステムで学べるようにしたほうがいいかもしれません。

  • 新規参入を促すための自由化

電力業界と同じように、現在の日本では教育は国が独占的に行なっている事業です。
私立学校も国の補助金によって成り立っているため実質国の組織の一部と考えられます。
そして、教えるためには教員免許が必要になり学校運営も認可されないと行うことができません。
これも私がわからない部分なのですが、なぜ人を教えるのに許可が必要なのでしょうか?
おそらく、歴史的経緯でかつて国を統治するために教育システムの支配は必要不可欠だったからでしょう。
しかし、このグローバル化した時代に国内のことだけ考えるやり方はもう時代遅れです。
Karn Academyの創設者は最初、自分の姪に勉強を教えるためにビデオをYouTubeにあげたのがはじまりだったそうです。
自分の知っていることを教えることは免許がなくてもできます。
そして、企業やNPO法人などやる気のある人たちの参入をこれからは自由化すべきでしょう。
そうすればもっと質の高い教育サービスが提供されるようになり、競争することによってコストも低下していくでしょう。


戦後、日本は企業社会になり立身出世する入り口としていい大学に入ることが幸せな人生へのパスポートだと思われてきました。
しかし、多くの人たちが大学に行くようになり、その上先進国の失業率が恒常的に高くなっている現状を見るともはやその戦略は通用しなくなりつつあります。
これは大量生産大量消費を前提にしていた企業がその時代が終わって調整局面に入ってしまったからでしょう。
そう考えると、これからは特に先進国では企業社会からフリーエージェント社会へと移行していくでしょう。
つまり、個人が業務を遂行する能力だけでなく、顧客を創造する能力も問われる時代になりつつあるということです。
それは、かつて企業が求めていたスキルとは違って、創造力や自分で考える能力が重要になってきます。
そして、企業に雇用される以外のワークスタイルが増えてくれば、学歴による選別が減り、より実務的なスキルが問われる時代へと移っていくでしょう。


学ぶということは本当は楽しくて幸せを感じられることだと思います。
私は三角形を基本とする幾何学の美しさに魅了され、いつもわだかまりに感じていたことを哲学によって考えることができるようになり、過去の偉人たちが実は普通の人だったと知って驚いたりなど学ぶことは本当に楽しいことだと感じています。
しかし、ほとんどの人は学位や資格を取得していいポジションにつくことしか考えていません。
それはそれで学ぶきっかけを持てたということでいいことではあると思いますが、もったいないなと思います。
また、それではやりたくもないのに学位や資格のためにがまんしてやるという不幸な状況になることもよくあります。
国や組織は思惑があって教育システムを作り出していますが、本当に好きなことは自分だけでも学べます。
子供のときは自分で選択するということは難しいかもしれませんが、今は大人になったら教育システムなどに頼らず自分でいくらでも学ぶことができる時代ではないでしょうか。
そうはいっても稼ぐためにやらなければいけないこともあるでしょう。
ただ、短い人生でいやなことをやり続けることにどれだけメリットがあるかを考えたほうがいいと思います。


今回はこんな教育システムがあったらいいなという妄想でこんなことを書いてみましたが、学びたいことがあれば自分で勝手に学べばいいし、そのほうが自分にあったやり方でできると思います。
見も蓋もない結論になってしまいましたが、また何か思いついたら書いてみたいと思います。

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 学校を出てバザールで学ぼう

スティーブジョブズがなくなって彼の生前に言っていたことをふと思い出しました。

  • 大学をやめて好きな勉強ができるようになった
  • Windowsはノーテイスト

一つ目は、彼は大学をドロップアウトしたのですがカリグラフィーや禅など自分の好きなことを大学をやめたから自由に学ぶことができたと語っていました。
そして、そのことがMacやその後に続く製品を生み出すときに役に立ったそうです。
二つ目は彼がAppleを追い出されてNeXTという会社をやっていたころに言っていた言葉ですが、私も当時Windows全盛の状況をあまり好きにはなれず同じ思いをしていました。
それはMicrosoftが単なる工業製品としてソフトを売っていたのとちがって、Appleはあたかも芸術作品のようなこだわりをもって作っていたからだと思います。



私も大学受験をあきらめたころApple IIを買ってコンピュータやプログラミングを自分で勉強しました。
また、本が英語のものばかりだったので英語も自分で学びました。
つまり、学校の外でもいくらでも学ぶことはできるし、むしろそのほうが本当に自分の身になるのではないかと思います。
実際、今の私はそのころ自分で学んだことが基本となっています。


ただ、学校で勉強することもいいことだと思います。
若いころに受験があるのは学ぶことの楽しさや重要性を認識する機会としてはいいかもしれません。
しかし、いい仕事を得るためにいい学校へ行くというシステムは人を学力というものさしでフィルターしているにすぎず、優秀な人材を育成するという点では機能していないのではないでしょうか。
私も受験勉強した経験があるので思うのですが、学校の勉強は本当にノーテイストだと思います。
それは教える側が余計だと思われるものを取り除いて、抽出した知識のみを教えようとするからだと思います。
そこには人の思いや熱意というのは感じられません。
後、学校はお金や時間がかかりすぎることですね。
このあたりも学校の企業努力でなんとかしてほしいところです。


私の好きな数学者のガロア群論という新しい分野の数学を考え出した人であり、同時にフランスの革命家でした。
彼は21才で恋人をめぐる決闘で命を落とすのですが、そういう生き方をした人が考えた数学というのはどういうものかという好奇心がわいてきます。
彼は当時の社会体制にも批判的で革新的な考え方をもっていました。
そういう人だからこそ数学でも革新的な業績を成し得たのだと思います。
こんなことを感じながら学ぶことはノーテーストな学校の勉強ではありえないでしょうね。


また、学校のだめなところとして人によって学ぶ速度や向き不向きが違うのに、ひとつのやり方を強制するところです。
一を聞いて十を知るような飲み込みの速い人もいるでしょうし、じっくり時間をかける人もいるでしょう。
また、人生にはいろんなことがあります。
病気をすることもあるし、お金を稼がなければいけない人もいます。
学校はそんな事情はお構いなしに自分の都合でことを進めていきます。
しかし、これからはそれぞれの人にあったサービスを提供しないと学校も生き残れない時代になりつつあるのではないでしょうか。
もちろん一生学ぼうとは思わない人もいるかもしれませんが、そんな人を無理に勉強させても無駄でしょう。
教育もビジネスと考えるなら、需要のないサービスを提供する意味はありませんし、学ぶということは結局はその人のやる気が一番重要だと思います。


また、学校だけの勉強ではわからないことが世の中にはたくさんあります。
例えば、アメリカは実際に行くと貧富の差がはげしい社会で、貧しい人々が多く住むところは治安が悪くて危険な場所が多くあります。
そのためか貧しい人たちの社会への怒りは日本よりも強いように感じられます。
ヨーロッパやアジアに行っても同様の状況があって日本は世界でもまれに見る貧富の差の少ない社会だということが実感できます。
しかし、日本の人々が幸せかというとそういう実感は少ないのではないでしょうか。
むしろ、アメリカのほうがなぜか人々がいきいきしてるなと私は感じました。。
こういうことは学校で勉強しているだけではわからないことです。


そういった感じで学校以外でも学ぶことはできるし、むしろそちらのほうが多くの人にとって向いた方法かもしれません。
では学校の外で学ぶ方法としてどういう方法があるでしょうか。

  • 書籍

アマゾンや大きな書店にいけばいまやあらゆる書籍が手に入ります。また、電子書籍の普及もあって洋書も安価で手軽に買えるようになってきました。
図書館で借りて読むのもいいですが、できれば買って読むと払った分を取り返そうと集中して読めるのではないでしょうか。
毎月1万円とか金額を決めて買うと結構な量を読めると思います。

  • インターネット

インターネットは情報収集としての機能もすばらしいですが、情報を発信するツールとして使うべきだと思います。
私のようにブログで思ったことを発表するのでもいいですし、写真や絵を発表したり、論文やソフトウェアを発表するのもいいでしょう。
英語で書けば世界中の人たちが見ることができます。
また、ソーシャルネットを使って人とのコミュニケーションを広げるのもいいでしょう。
私は不特定多数への発信はTwitterを使って知り合いとのコミュニケーションはFacebookを使っています。
時々、SkypeでTV電話したりもしています。

  • 海外へ行く

いまや格安航空会社も出てきて気軽に海外にいけるようになりました。
私のおすすめは一人で海外に旅行することです。
治安や言葉の問題はありますが、一人で行くと好きなところにいけますし、現地の人たちといろんな交流ができて面白いと思います。
ただ、女性でひとり旅はあぶなかったりするので現地のガイドさんなどに依頼して付き添ってもらうほうがいいかもしれません。

  • 行動する

学んだ成果を共有したり、誰かのために貢献したりすることはモチベーションをあげるためにもいいと思います。
例えば、勉強会を開いたり、誰かと一緒に何かを作り上げたりするのもいいでしょう。
学ぶということは自分が社会に何か貢献できる人になるための行いです。
そういう人が社会に貢献することによって本人もやりがいや幸せを感じられるようになるのではないでしょうか。


学ぶということは学位をとって実入りのいい仕事につくことが目的になりがちですが、本当の目的は社会に貢献する人となってその結果自分が幸せになるために行うことだと思います。
資本主義社会に生きる私たちにはお金はもちろん大事ですが、お金ばかり追いかけて年老いていく人生ってあんまり幸せではないと思います。
また、資本主義社会の成熟とグローバル化によってかつてのような雇用は減っていくでしょう。
つまり、上からの指示にしたがって行う仕事はこれから減っていくということです。
そんな時代に必要なのは個人が新たなことを学んで自分で考えて行動する能力です。


これからはバザールという外の世界に出て学ぶ喜びや人に貢献する喜びを大事にして生きていきたいものですね。

スティーブ・ジョブズ Iスティーブ・ジョブズ I
ウォルター・アイザックソン 井口 耕二

講談社 2011-10-25
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ガロワ正伝: 革命家にして数学者 (ちくま学芸文庫)ガロワ正伝: 革命家にして数学者 (ちくま学芸文庫)
佐々木 力

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はやぶさ、そうまでして君は。

はやぶさ、そうまでして君は〜生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話はやぶさ、そうまでして君は〜生みの親がはじめて明かすプロジェクト秘話
川口 淳一郎

宝島社 2010-12-10
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出版されて半年以上もたってますが、いまさらながら読みました。
去年の6月くらいに報道等で知っていましたが、正直あまり印象にはありませんでした。
しかし、この本を読んでこれは科学的なことだけではなくプロジェクトマネージメントや人間の生き方にも教訓となるエピソードではないかと感じました。


ご存知のとおり、はやぶさとは小惑星帯を探査するために開発された人工衛星です。
しかし、いままでの惑星探査とは違う世界初の以下の課題を7つもクリアしなければいけませんでした。

技術的な詳細は本を読んでいただくとして、これらは世界の誰もやっていないことなので試行錯誤もしくはぶっつけ本番でやってみないとわからないものばかりでした。
そして、案の定トラブル続出したのですが、メンバーの知恵と根性と幸運によってミッションを完了することができました。

私がこの話で感動したのは科学的な偉業ではなく、それを実現させようとする人たちの思いがとても人間っぽくてこれから自分が生きていく上でも学ぶべきことがあると感じたからです。
この本で私が学んだことは以下のことでした。


1 加点法による評価
日本は学校でも企業でも減点法で評価されます。
学校ではテストで間違うと減点され、会社では失敗すると左遷されます。
私が働くIT業界でもできて当たり前で、難しい状況をがんばって解決しても評価されたことはありませんでした。
これでは新しいことに挑戦しようとする人はいなくなってしまいます。
はやぶさプロジェクトでは世界初が7つもあるので全部できなくても評価するという形になりました。
私のまわりではこんな話は聞いたことがないので、このことがはやぶさプロジェクトを成功させた最大の原因ではないかと思います。


2 限られたリソースの中で果敢にチャレンジしてイノベーティブな成果を出す
日本に比べてアメリカのNASAは10倍以上の宇宙関連予算があります。
そのため、日本の宇宙開発が進まなかったと誰もが思っていました。
しかし、本当はそうではなく人々がチャレンジしなくなってしまったから止まってしまったことが一番の原因でした。
その証拠にアメリカは莫大な予算があるにもかかわらず、スペースシャトルの失敗など昔のような成果は出せなくなってしまいました。
それは、NASAがすでに実績のある技術やプロジェクトを優先したために新たなイノベーションが起こらなくなってしまったからです。
一方、はやぶさプロジェクトは少ない予算の中で工夫しながら世界初の小惑星探査を実現しました。
お金がなくてもできることはたくさんあります。
頭からお金がないからできないと決め付けるのではなく、できるようにするにはどうすればいいか考えることが重要です。


3 わくわくする仕事が優秀な人たちを集める
プロジェクトリーダーの川口さんによるとはやぶさプロジェクトでマネージメントで苦労したことはなかったといいます。
仕事自体が面白いからやる気のある優秀な人たちが集まって、いろんなアイデアを出したり自主的に作業を進めてくれたそうです。
そして、PMの仕事としてはその出てきたアイデアをまとめて方向づけしさえすればよかったのです。
私もいろんなプロジェクトにかかわりましたが、MSプロジェクトみたいなもので各メンバーのタスクを管理して遅れていればせかせるような状況でした。
そのようなプロジェクトではすばらしい成果は出せないのでしょうね。


4 リーダーの資質で必要なのは孤独に耐えられること
はやぶさが1ヶ月ほど行方不明になったとき、管制室は人も閑散とした状況でした。
人は調子のいいときは集まってきますが、苦しい時には離れていくものです。
そんななかでも孤独な状況に耐えて自分を信じて努力していくことはリーダーとして必要な資質だと思います。
また、ものを決断するときもリーダーが孤独感を感じる瞬間です。
まわりの意見を聞いても最後は自分の責任の上で決断することができないとリーダーとしてはやっていけないのでしょうね。


5 自分で意義があると思える仕事ができることは人生最高の幸せ
川口さんははやぶさが地球に帰ってきて大気圏に突入して燃え尽きるのをなんとか回避できないかと考えたそうです。
7年も惑星探査のミッションを行ってきて、はやぶさにかなりの思い入れが出てきたのでしょうね。
それだけ思えるのもこのプロジェクトが人類にとって意義があると信じていたからだと思います。
そんな仕事に関われるのは人としての一番の幸せなのかもしれません。
翻って自分のまわりを見ると、お金や権力を得るのによくよくとしている人たちが多くて、この人たちは人生充実しているのだろうかと思ってしまいます。
はやぶさほど大きなことでなくても意義のある仕事や生き方はできると思います。
そんなことを見つけて生きていけたらいいなと思いますね。


はやぶさプロジェクトでは世界初の挑戦だったので新しい技術が色々開発されました。
そんな技術的な詳細はこちらの本に詳しく書かれています。

小惑星探査機「はやぶさ」の超技術 (ブルーバックス)小惑星探査機「はやぶさ」の超技術 (ブルーバックス)
川口 淳一郎

講談社 2011-03-23
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夏休みにまとめて読んでみたい本(一般教養編)

前回はITエンジニア向けでしたが、今回はどなたにもためになるであろうおすすめの本をご紹介したいと思います。

みんな集まれ! ネットワークが世界を動かす(IT)

みんな集まれ! ネットワークが世界を動かすみんな集まれ! ネットワークが世界を動かす
クレイ シャーキー 岩下 慶一

筑摩書房 2010-05
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最近FacebookTwitterなどのソーシャルネットサービスを多くの人が使うようになりましたが、ソーシャルネットとはいったい何なんでしょうか。
それは、新たなコミュニケーションツールであり、企業や国に代わる新しい共同体を生み出す可能性のある技術革新であることがこの本で説明されています。
少し前に起こった中近東の革命もソーシャルネットで連帯した人たちが起こしたものですし、先日起こったイギリスの暴動も同じような状況でした。
このようにこれからは好むと好まざるにかかわらず、ソーシャルネットを使っていかなければいけない時代になりつつあります。


人を動かす(コミュニケーション)

人を動かす 新装版人を動かす 新装版
デール カーネギー Dale Carnegie 山口 博

創元社 1999-10-31
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少し前にKYという言葉がはやりましたが、どうして人の気持ちをさかなでするようなことをいうのかなという人が結構います。
特に、会社で本人は正しいと思っているのでしょうが、単なる自分の思い込みを押し付けているだけという人も多い感じがします。
この本では人と接するときに相手にどのような配慮をするとスムースにコミュニケーションができるかということを教えてくれます。
例えば、丁寧な言葉で話すとか過激な言葉は使わないなど社会人として知っているととても役に立つ内容です。
スターバックスではマネージャーが現場の人に作業をやってもらう場合、命令するのではなく必ず「やってもらえますか?」とお願いするそうです。
そう言われると言われた方も気持よく仕事ができてとてもいいルールだと思います。
日本の会社はどうして気持よく仕事ができないのかと思うことが多かったのですが、この本に書いてあることを実践すれば現場のパフォーマンスもあがるのではないでしょうか。

反社会学講座(社会学)

反社会学講座 (ちくま文庫)反社会学講座 (ちくま文庫)
パオロ マッツァリーノ Paolo Mazzarino

筑摩書房 2007-07
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文章はちょっとふざけた感じの本ですが、内容はとてもまじめで面白いです。
社会学なので一般社会について統計情報などを元に色々分析する内容になっています。
例えば、最近若者の犯罪が多いとよく言われますが、実は昭和30年代の方が重大犯罪は多かったそうです。
そのころは貧しい人も多かったでしょうし、盗みや殺人も多かったのでしょうね。
なので、現代は意外に治安のいい時代というのがわかったりします。
常識と思われるものがちゃんと調べてみると結構まちがっていることが多いのかもしれません。


項羽と劉邦(歴史)

項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)
司馬 遼太郎

新潮社 1984-09
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司馬遼といえば「竜馬がゆく」や「坂の上の雲」なのでしょうが、私はこの本が一番面白かったです。
中国の歴史が好きで特に春秋戦国時代が好きなのですが、この本の時代はその春秋戦国時代が終わるときの話です。
秦によって中国が統一されるのですが、始皇帝が死んですぐに国が乱れてしまいます。
そこに項羽と劉邦という新勢力が出てきて争うのですが、劉邦は圧倒的に弱いんですね。
一方、項羽は家柄もよく勇敢で軍人として優秀でした。
そして劉邦は女たらしで弱虫なんですが、なぜか優秀な多くの部下が彼についていきます。
リーダーって誰からも尊敬されるスーパーマンみたいな人というイメージがあるんですが、実はいかに優秀な部下がサポートしてくれるかが一番大事なんですね。
なのでこの人についていったら自分の能力を存分に発揮できそうだと思わせる人がリーダーとして向いている人なんだと思います。
そんなことを教えてくれた本でした。



フェルマーの最終定理(数学)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)フェルマーの最終定理 (新潮文庫)
サイモン シン Simon Singh

新潮社 2006-05
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フェルマーの最終定理という方程式があってネットで検索してもらうと出てくると思うのですが、見た目とても簡単な定理なんですがフェルマーが予想してから360年後の最近まで証明されませんでした。
フェルマーはおそらくそうだろうという予想だけしたのですが、それが本当に正しいか後世の多くの人たちが挑戦して挫折し続けました。
その突破口を見つけたのが実は日本人で、「志村・谷山予想」というものでした。
これはフェルマーの最終定理を他の言葉で言いかえただけなのですが、そこから新たな方法が見つかってきます。
最終的にはイギリスのワイルズという数学者が解決するのですが、それまでのいろんな人たちのドラマも結構おもしろいです。
フェルマーの最終定理は数学の基本的な分野の研究ですが、こんなにおもしろいものかと思わせてくれた本でした。



反哲学史(哲学)

反哲学史 (講談社学術文庫)反哲学史 (講談社学術文庫)
木田 元

講談社 2000-04-10
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哲学というと難しくて役に立たないというイメージがありますが、元々は誰もが体験する日常生活の中にあることがテーマになっていて人生をよりよく生きるための指針となることも結構語られています。
この本はそんな哲学の歴史を批判的に解説した本です。
哲学はもともとギリシャから出てきた学問で一番有名なのがソクラテスですね。
プラトンはその弟子でソクラテスの考え方をより深めた人でした。
ソクラテスで有名なのは無知の知で、自分は無知であることを自覚しているからソフィストと呼ばれる詭弁家を批判することができると主張していました。
その後、アリストテレスデカルト、カント、ヘーゲルといった哲学者が登場し、西洋文明がキリスト教とギリシャ哲学がミックスされて近代文明を作っていった経緯を解説していきます。
その後にその流れを批判するマルクスニーチェが登場し、現在の西洋のあり方を批判するようになります。
西洋では20世紀に第1次世界大戦、第2次世界大戦と大きな戦争が起こりました。
それは科学技術が発展し人間中心主義的な考え方が一般的になったため、大きな争いが起こりやすくなったのでしょう。
その根本にあるのは西洋の哲学的な考え方でした。
そんな西洋の考え方を知っておくことは、これからのグローバル社会で必要になることではないでしょうか。




これからの「正義」の話をしよう(哲学)

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
マイケル・サンデル Michael J. Sandel

早川書房 2010-05-22
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これはNHKで放送された「ハーバード白熱教室」の内容を書籍化したものです。
テーマは「正義」についてです。
正義とはなんでしょうか。
それは人によってや時代によっても違うでしょう。
ただ、多くの人と関係をもって生きていかなければいけない現代では正義についての議論はとても重要だと思います。
例えば、この本の例として電車事故のエピソードがあります。
電車を運転していたら突然ブレーキがきかなくなって目の前に3人の人がいたとします。
このままいくとその3人をはねて殺してしまいます。
しかし、その電車は別の線路に曲がることができてその先には1人の人が立っています。
あなただったらどちらを選ぶかという問いですが、ほとんどの人が1人の人の方へ曲がるというでしょう。
それは「功利主義」という考え方で、最大多数の人が最大の利益を受けることが正義であるという考え方です。
しかし、その考え方には問題もあり、少数派が常に抑圧されるという危険性もあります。
実際の状況ではどちらか選択しなければ行けない場合は多数を助けるということになるのでしょうが、正義は何かと考える場合はこのような議論を行って考えを深めることがこれからの時代は重要なのではないかと思います。



マンキュー入門経済学(経済)

マンキュー入門経済学マンキュー入門経済学
N.グレゴリー マンキュー N.Gregory Mankiw

東洋経済新報社 2008-03
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経済学も何か大学での高尚な学問のようなイメージがありますが、実際には私たちの生活に直結するテーマを扱っています。
例えば、現在提供されている社会保障(健康保険や年金、生活保護など)は税金や掛金などで賄われていますが、国内の経済活動が行われているから成り立っている制度です。
また、みなさんが受け取る給料は所得の再分配をどのように行うかにかかわる問題で、頑張った人や高度なスキルを持つ人にたくさん配分されるようなしくみが人々のインセンティブをあげて経済活動にいい影響を与えることになります。
このように経済学は私たちが日々行っている経済活動が社会にどのように影響するかを教えてくれます。
そして、このマンキューの本は経済学の本の中でも読みやすく、内容的にもすばらしいと思います。


私は学生のころは学校の勉強がつまらなくてあまり勉強熱心ではありませんでした。
しかし、本を読むのは好きで地元の大きな書店にはしょっちゅう通って面白そうな本をよく読んでいました。
そのころはアマゾンのようなサイトがなかったので自分の興味がある本をさがすことが難しかったですが、今はネットでいろんな面白そうな本をさがすことができるのでいい本と出会える確率はあがったと思います。
ここに上げた本は私が読んでとても影響をうけた本なので、もし他の方にもいいと思ってもらえたら紹介したかいがあったなと思います。
やはり、いくつになっても新しいことを学ぶのは楽しいですね!

夏休みにまとめて読んでみたい本(エンジニア編)

お盆も近づいてきてもう夏休みに入っている方も多いのではないでしょうか。
せっかくのお休みでも帰省や家族サービスなど忙しいかもしれませんが、こんな時こそエンジニア力を上げるための読書をしてみてはいかがでしょうか。
ということで、どちらかというと普段あまり読む時間がとりづらい基本的な知識についての本をあげてみました。


Rによるやさしい統計学

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私が今統計にハマっているのもあるのですが、まずはこちらの本をあげてみました。
R言語は数学を扱うのに最適化されたオープンソースの開発言語で方程式やマトリックスを簡単に扱うことができます。
エクセルでも統計計算はできますが、スプレッドシートというインターフェースにしばられているのでバッチ的な使い方ではこちらのほうがいいですね。
それにただですし。
この本は私のような統計を全く知らない人向けに書かれているので、統計の基本的な知識も学べます。
これでいろんなデータを集めていろいろ分析してみたいですね。


オブジェクト指向入門 第2版 原則・コンセプト
オブジェクト指向入門 第2版 原則・コンセプト (IT Architect’Archive クラシックモダン・コンピューティング)オブジェクト指向入門 第2版 原則・コンセプト (IT Architect’Archive クラシックモダン・コンピューティング)
バートランド・メイヤー 酒匂 寛

翔泳社 2007-01-10
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オブジェクト指向はいまやソフトウェア開発では常識となっていますが、本当に理解している人はどれくらいいるのでしょうか?
この本はそんなことを思い知らせてくれる内容の濃い本です。
昔、私はアメリカの大学の授業でEiffleという開発言語を使ったことがあるのですが、この著者が作った言語でした。
Eiffleは静的型オブジェクト指向開発言語でプログラムを厳格に開発できるいい言語だったのですが、かつぐベンダーがいなかったのと当時のマシンではちょっと重すぎて使いづらかったので広まらなかったですね。
でもJavaRubyなどに影響を与えて一部Eiffleの仕様が取り入れられています。
かなりのボリュームなので読むのは大変ですが、エンジニアとして一皮むけることができるのではないでしょうか。


動かしながら理解するCPUの仕組み

動かしながら理解するCPUの仕組み CD-ROM付 (ブルーバックス)動かしながら理解するCPUの仕組み CD-ROM付 (ブルーバックス)
加藤 ただし

講談社 2010-01-21
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Z80というCPUをご存知でしょうか。
8bitパソコン(当時マイコンと呼ばれてました)全盛のころ一斉を風靡していたCPUで、シャープやNECなどからZ80搭載のパソコンが売られていました。
いまでこそインテルが全盛ですが、その場しのぎの増築をした感じだったインテルCPUよりアーキテクチャーがとてもきれいなZ80のファンのほうが多くいました。
なのでCPUの動きを学ぶにはZ80はとても向いているCPUだと思います。
この本はそのZ80を題材にCPUとはどう動くのかを解説した本です。
CPUは意外に単純なことしかできなくて、レジスタと呼ばれる一時記憶領域とメモリ間のデータ移動とI/Oポート経由のデータのやりとりが大半の仕事を占めています。
そんな単純なことしかできないチップが社会を変えるほどの製品だったとは驚きですね。
付属CDのソフトはWindows上で動くCPUエミュレーターで動きを視覚的に見ることができます。
(ただし、64bit版Windowsでは動かないようなのでご注意を。)


デザイン・ルール―モジュール化パワー

デザイン・ルール―モジュール化パワーデザイン・ルール―モジュール化パワー
キム・クラーク カーリス・ボールドウィン 安藤 晴彦

東洋経済新報社 2004-03-26
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この本はシステムのアーキテクチャはどうあるべきかを私に教えてくれた本です。
本のテーマはシステムのモジュール化ですが、その例としてIBM System360というメインフレームコンピュータがあげられています。
Wikipedia IBM System/360
System360はいまでは当たり前な拡張カードをさすためのスロットを装備するなど、はじめてモジュール化を実現したコンピュータでした。
それまでのコンピュータは一体型だったので機能拡張するためには本体を買い換えるしかありませんでした。
また、システムがモジュール化することによって産業構造も変わりました。
それまではIBMという巨大な企業が一社で全てのモジュールを売っていましたが、周辺機器を専門に製造するメーカーがたくさん登場しました。
多くはIBMからのスピンオフだったそうですが、これによって産業構造がシステムに合わせて水平分業体制に移行していきました。
この水平分業が可能になったのもSystem360のモジュール間インターフェースが標準化されていて、一部の変更が他モジュールに影響しにくい構造になっているからでした。
これに対して自動車など日本企業が強い産業では一体型の製品が中心なのでモジュール間の結合性が強くてすり合わせの文化になっていきました。
これは品質を上げるのにはいい体制ですが、産業構造が大企業を頂点とするピラミット構造になってしまいます。
日本で新しいイノベーションが起こりにくいのもこのようなことが原因なのかもしれません。
こんな感じで私にとっては色々考えさせられた本でした。


イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
クレイトン・クリステンセン 玉田 俊平太 伊豆原 弓

翔泳社 2001-07
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これはどちらかというとビジネス書の分類に入る本ですが、エンジニアの人は知っておくべきことが書いてある本です。
IT業界は早いサイクルで技術革新が進んできた業界ですが、同じ企業が何度もイノベーションを起こすことはまれです。
それは、企業は顧客のために最適な製品やサービスを提供しようとするためイノベーションの芽に気がつかないことが多いのです。
例えば、最初AppleがPCを発売したとき、メインフレームやミニコンを作っているメーカーのほとんどは無視しました。
Appleが発売したApple IIは8bitコンピュータでメモリーも少なくおもちゃのような製品だったからです。
しかし、自分のコンピュータがほしい人たちがたくさんいたことを大手メーカーはわかっていませんでした。
その上、大手メーカーは既存顧客の要望を第一に考えるためリソースをそのために注ぐことになります。
このようにイノベーションは新しいマーケットを作り出すため、企業が入れ替わるのはほぼ必然なのでしょう。
この変化の激しい業界でやっていくためにはこのことを肝に命じておく必要がありますね。


キャズム

キャズムキャズム
ジェフリー・ムーア 川又 政治

翔泳社 2002-01-23
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こちらもビジネス書になりますが、私がマーケティングをはじめて意識した本です。
タイトルのキャズムとは隙間という意味なのですが、技術が世間一般に普及するためにはあるパターンがあります。
新しい技術が出てきたとき、まずは技術オタク系など新しもの好きのユーザーが最初に使い始めます。
その次に先進的な一般ユーザーや企業が使い始めて、それから普通の人たちが使い始めます。
最近はやりのスマートフォンSNSなどはそんな技術ですね。
この先進的な一般ユーザーから普通のユーザーに普及する間にキャズムと呼ばれる壁があります。
このキャズムを越えられないとその技術は廃れていきます。
IBMが昔売っていたOS/2やDECが開発したAlpha CPU、ApplePDA Newtonなどがキャズムを越えられなかった製品ですね。
これらの製品は技術的には優れていましたが、顧客のニーズをちゃんと考えていなかったり、普及させるための戦略が甘かったたりしたのだと思います。
やはりうエンジニアとして仕事をするなら、このキャズムを越えられるような技術や製品を作りたいものですよね。


今年も暑い夏になりそうですが、涼みながらエンジニア力を上げるのもいいのではないでしょう。

ポータブルなスキルを持とう

フリーで仕事をしているといろんな会社を見ることができました。
行った先の会社ではプロパーの人とも一緒に仕事をしましたが、その人たちの多くは転職は難しいだろうなと思いました。
もちろんほとんどの人は仕事もできてまじめなのですが、その会社の業務に特化したスキルしか持っていないために会社を辞めたとたんに何もできない人になってしまうからです。
こういう人を「企業内特殊熟練」と呼ぶそうですが、スキルがポータブルでないため転職が難しい人がかなり多いと思います。


では、特殊スキルがあればいいかというとそれも難しい時代になりつつあります。
例えば、ITエンジニアであればCiscoネットワークエンジニアとかOracle DBアドミニストレータなどの専門スキルを転職の武器にできるでしょう。
また、プロジェクトマネージャーやシステムアナリストなど上位レイヤーのスキルも売りになるかもしれません。
しかし、これからはそれだけでは厳しい時代になりつつあります。
なぜならば、先の見えない時代に仕事を与えられるのを待っているような人はだんだん仕事がなくなってしまうからです。
これからは全ての人がより経営者に近い立場で仕事をしなければいけなくなる時代になっていきます。
したがって、今までの専門スキルに加えて次のようなスキルが求められると考えられます。


英語


今まで日本は翻訳社会でした。英語の情報はいったん日本語に翻訳されて知識として利用されていました。
しかし、ネット時代になって翻訳なんていうかったるいことができなくなりつつあり、リアルタイムで英語を理解して反応しなければいけない時代になってきました。
今までの教育はその状況を想定していないために、日本人の大多数の人が英語でコミュニケーションできません。
したがって、自力で努力してこの変化に対応していく必要があります。
これから国内だけに閉じたビジネスは減っていき、海外とやりとりする仕事が増えていくため英語は必須のスキルとなるでしょう。
まずは好きな分野の雑誌を定期購読して読んでみてはいかがでしょうか。
ITエンジニアであればWiredあたりが内容的にも面白いと思います。

Wired [US] July 2011 (単号)

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ファイナンスと会計


今までサラリーマンで働いていれば給料が毎月振り込まれてきました。
しかし、サラリーマンの人はあまり知らないかもしれませんが、会社には意外にお金はありません。
企業は毎月利益をあげ、銀行から融資をしてもらい、上場企業は株式によって資金調達しています。
これからはそういうことを理解している人が求められるようになります。
ただ、何も会計士ほど知っている必要はなくて、決算書を見て企業の状況を理解したり、企業のお金の流れはどうなっているかがわかるだけでも仕事には役立つと思います。
MBA財務会計 第2版 (日経BP実戦MBA)

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数学


会計も数字を扱うことでしたが、これからはいろんな場面で数学が必要になってくるでしょう。
例えば企業は売り上げ情報からこれからどんなものが売れるのかを予測しています。
コンビニなどで利用されているPOSシステムはその典型でしょう。
その予測には統計の知識が使われています。
また、ゲーム理論という数学分野はマーケティングや新製品開発などにも使われていて企業戦略の意思決定に利用されています。
ITコストの低下により低コストで大量データを処理できるようになり、統計をはじめとした数学の知識がこれから重要になると思います。
完全独習 統計学入門

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ゼミナール ゲーム理論入門

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終身雇用は崩壊し、これから転職や独立がより一般的になっていくでしょう。そのような状況ではどこに行っても使えるポータブルなスキルをマスターしていく必要があります。
それは資格や学歴など人事部が判断できるものではなく、実際に仕事で役に立つことが重要になります。
まずは自分の専門でどこにでも通用するスキルを磨くと同時にこれら3つのスキルも同時に勉強していけば可能性は広がるのではないでしょうか。