【書評】起業価値評価 実践編

 またまたバリュエーションの本を読んでしまいました.
「企業価値評価 実践編」はタイトルとおり実際の企業の価値評価を行う内容になっています。
東京製鉄、カゴメ、三共という3社を例に公表されている財務諸表からROICやWACC,成長率などを割り出し現在の株価が割安か割高かをはじき出しています。

 東京製鐵は電炉を専門にした製鉄会社で国内だけでビジネスをしている会社です。
(こんな製鉄会社があったんですね。知らなかった。)
ここは有利子負債をまったくしてなくて、ほぼ自己資本で経営しています。
しかし日本の製鉄会社のほとんどは資金のかなりの部分を有利子負債でまかなっているんですね。
新日鉄JFEなど大手鉄鋼企業は有利子負債の割合が70%を越えています。
その中で東京製鐵は珍しい企業ですね。
 東京製鐵は株式による資金調達がメインのためか毎年配当を出しています。
しかしそのためにWACCがROICを越えているためこのまま配当を出し続けることが難しくなるという分析になっています。
そして2002年当時一株450円だったのですが、すこし割安という判定をしています。

 ではいまの東京製鐵の株価はと言うとなんと2500円になっています。
決算書を見ると好景気のためか売上げ、利益ともかなりあがっています.
17年度の営業利益は16年度の5倍以上になっています。
にもかかわらずの無借金経営でバランスシートの内容は素晴らしい会社ですね。

 このように分析していくとその企業のビジネススタイルが見えてくるのがおもしろいですね。
しかしリースや減価償却などかなり会計知識がないとDCFでの分析は難しいですね。
企業が発表している決算書では分析できないので、DCF用にB/S,P/Lとも再構成する必要があるからです。
会計もちゃんと勉強しないとだめですね。

 この本の東京製鐵の分析では売上げ,利益ともそんなにのびないという前提で分析していたのでこんなに株価があがることが予想できなかったのでしょう。
通常は楽観、悲観両方のシナリオで分析するそうですが、楽観でもこれだけあがるとは予想はできなかったでしょうね。
ただ極力借金をしないで堅実にビジネスを行う姿勢が好景気の波に乗れた原因かもしれません。

 DCFは株投資の銘柄選択に使うことを目的にしている人が多いかもしれませんが、優れた経営者の技を勉強するツールとしてとても有効なものだと思います。

企業価値評価 【実践編】企業価値評価 【実践編】
鈴木 一功

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