ほんの読み方 スローリーディングの実践

本の読み方 スロー・リーディングの実践本の読み方 スロー・リーディングの実践
平野 啓一郎

PHP研究所 2006-08-17
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仕事で文章を書く場合、目的は情報を正確に伝達することです。
例えばプロジェクトでシステムの設計書を書くのは実装するエンジニアに正確に作ってもらうためです。
もし人によって解釈の違う設計書だったら、ちゃんと動くシステムはできないでしょう。
従って5W1H的な情報はもれなく書いて人の判断が入らないように事細かに全てを網羅していなければいけません。
(実際は現場判断が多いのが実情でしょうが。)

一方、小説は読む人によって色んな解釈を許す文章です。
もちろんビジネス文章と同じように状況を明確に記述するのは小説でも同じですが、読む人が感情を移入して登場人物になりきることができるのが小説の面白さでしょう。
「本の読み方 スローリーディングの実践」という本ではそんな小説の読み方を提案している面白い本です。
ビジネスや受験の場では速読できることがもてはやされていますが、私は本はじっくり読みたい派なのでタイトルを見たとき何かピンとくるものがありました。
かつてはフォトリーディングを試したりしたこともありますが、自分にはできないのでそのような読み方はあきらめました。
やはりじっくり理解して読むことが自分にはあっているようです。

 小説は著者の仕掛けを考えながら読むことがより作品を味わう読み方のようです。
この本の例題としてカフカの「橋」という短編が取り上げられています。
「私は橋だった。」という奇妙な書き出しから始まるのですが、いかにもカフカらしい訳の分からない文章です。
しかし、これはメタファーとして考えると別の見方ができるようです。
つまりカフカはこの小説によって官僚組織の不条理さを表現しようとしているという解釈です。
そうすると個人が組織に埋没している官僚組織の状況を地図にも載っていない橋で表現しているのではないかと推測できます。
なぜそんな回りくどい言い方をするのかと思ってしまいますが、それが小説というものなのでしょう。
ただしカフカが本当にそういう趣旨でこれを書いたのかはわからないですが。

 最近仕事関係のものしか読まなくてここ数年は小説を全く読んでいないのですが、人間性を磨くには小説がいいかもしれません。
仕事では論理的な左脳の能力ばかりを使うことが多く人間性に関わる右脳の能力がかなり落ちてきているような気がします。
そんなときは少し小説でも読んで人間性の回復をはかったほうがいいかもしれませんね。