第三の買収

第三の買収第三の買収
牛島 信

幻冬舎 2007-09
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 ほとんど書評を書いたところでウィンドウを閉じてしまって書いたものが消えてしまいました。(泣)
ということでもう一度書き直してます。


「第三の買収」はMBOをテーマにしたビジネス小説です。
MBOとはご存知の方も多いと思いますが、マネージングバイアウトの略で株式公開企業の株を経営者が株主から買い取って非公開企業にすることです。
最近増えた敵対的買収の防衛策として日本の企業でも行われるようになりました。
最近ではポッカやワールドといった会社が行いましたね。


この話のあらすじは龍神商事という会社の社長がMBOをやると宣言して部下の狭間と日夏が悪戦苦闘するというものです。
本の中で投資銀行の女性バンカーが「MBOとは会社をオークションに出す事』と言いますが、まさに巨額のお金が動くオークションです。
最も高い値段をつけたところが買収することができます。
しかし、お金を出す方も投資価値があるか判断をしなければいけません。
そこでデューディリジェンスを行って企業価値を算定します。

この本での一番のテーマは企業をモノとして売り買いしていいのかという疑問です。
会社はいうまでもなく人によって構成されています。
従業員が一生懸命働くから利益が出せて企業価値もあがります。
また、色んな取引先や顧客がいるから企業として存在することができます。
しかし、企業買収というのはそう言う人たちを無視して株主だけで決定されてしまいます。
長年人生を賭けて会社を育ててきた人も株を持っていないと株主である外部の人に追い出されてしまいます。
資本の論理からいうと合理的なのでしょうが、通常の人の感覚としては違和感がありますね。


その一つの回答がEBOというスキームです。
エンプロイーバイアウトといって従業員が会社を買い取ることです。
これはユナイテッド航空がかつて行った方法です。
ユナイテッドは残念ながらその後2000年には破綻してしまうのですが、企業買収に対する対抗策として有効であることを証明しました。
この著者はこのユナイテッドの事例を参考にしていると思います。


ネタばらしになってしまいますが、この本でもこのEBOが最後に出てきます。
しかし、私がもう一つ思ったのは有志が会社をやめて起業するというのもありかなと思いました。
MBOで会社を買い取ろうとすると敵対買収を仕掛けてきたファンドと買収合戦をしなければいけなくなります。
そうすると買収額は高くなり競り合いに勝ったとしても莫大な借金をすることになります。
それなら一から出直してやったほうが借金も少なくていいのではないかと思います。
なので話の流れとしては敵対的買収で裏切り者の常務が社長になるのですが、それに反発する人たちが会社をやめて別会社を立ち上げます。
買収された会社は優秀な人材が流出して収益が落ちますが、やめた人たちが作った会社はその会社のシェアを食っていくというシナリオです。
これも現実に例があって、岩井克人さんの「会社はこれからどうなるか」という本で紹介されています。
イギリスの広告代理店の話ですが、実際にそのようなことが起ったそうです。
広告業界も人の能力に負うビジネスなのでそういうことが起こりやすいのでしょうね。


私のいるIT業界も人材がキーになりつつあります。
いまやハードウェアや通信コストは劇的に下がり、オープンソースソフトウェアの台頭もあって企業間のIT格差がだんだんなくなってきました。
昔はUnixワークステーションが何百万もしましたが、いまはPCサーバーは数十万で買えます。
しかし、今はできるエンジニアを見つけるのが大変です。
うちの業界はどれだけやる気のある優秀なエンジニアを引き込めるかが勝負の決め手になりつつあります。
しかし、日本の多くの企業は優秀な人材が欲しいと言いつつも会社の魅力をあげるような手を打っていませんね。
給料をあげたり福利厚生をあつくしたりなど小手先の対策ばかりで仕事を面白くてやりがいのあるものにしようとしている企業はあまりありません。
それに比べるとシリコンバレーの会社はやりがいのある仕事を提供しています。
GoogleApple,Intelなどで働いているエンジニアは充実しているでしょうね。
(死ぬほど大変かもしれませんが。)


この本の最後に主人公の1人が「会社はお金ではない。やりがい、生きがいを求める場所だ」と言います。
青臭い理想論のように聞こえますが、私も長年社会人として働いていて同感です。
お金は大事ですが、それだけのために働いているのではありません。
そういう人もいるでしょうが、お金だけ追いかける人生は自分が死ぬときになって人生を振り返ったとき何のために生まれたのかとおそらく思うのではないでしょうか。
やはりやりがいや充実感を感じながら働く事こそ幸せなんだと思います。


もうすぐ2008年になろうという時にそんなことを思いました。