「空気」の研究

「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))
山本 七平

文芸春秋 1983-01
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この本は日本の組織において空気という得体のしれないものによってなぜ重要な決定がされたりするのかを考察したものです。
第2次世界大戦でなぜあんな無謀な戦争をはじめたのか、関係者の発言を聞くと当時の空気では戦争は回避できなかったという人が結構いたそうです。
今でも会社などの会議で物事がなんとなく決まってしまうという体験をされた方は多いのではないでしょうか。


この本は内容が所々難しくてちゃんと理解できたかどうか不安なのですが、重要と思われるキーワードはいくつか拾えました。


1  臨在感的把握
 日本人は対象となる人や物に自分を同一化しがちです。
例えば自動車裁判で車が人をひくから車が悪いとなって車自体を規制しようとします。
しかし、車を作っているのは人で運転しているのも人です。
その人たちを批判せずに物に思考がいってしまうというのが臨在感的把握の一つです。
こういう傾向のある人たちが議論しだすと一種の空気を生みだし自由な発言が抑圧されるようになります。


2  一教師オール3生徒
戦前の日本は天皇を頂点として構成された国家でした。
その下には首相や大臣はいましたが、天皇の下ではみんなが平等という考え方が強かったようです。
しかし、人は色々いるので全て同じというわけにはいきません。
そこで基準を状況によって変えて、みんながオール3の人になるようにします。
今の日本の教育がこれと似た状況になっていますね。


3  状況倫理
 状況に応じて何が正しいかが変わってしまうことを状況倫理といいます。
企業で不祥事があっても内側から改善されないのは、個人にとって悪いことでも組織にとって正しければ簡単に善悪の判断基準を変えてしまうのが日本人です。
第2次世界大戦の最中はあれだけ鬼畜米英と言っていたのに戦争が終わったら民主主義と自由だと言える日本人を外国人は理解できなかったでしょう。


簡単に言うと日本人とはおっちょこちょいで論理的議論ができないということなのでしょう。
私も会社であるプロジェクトのやり方で空気で物事が進んでしまったのを見たことがあります。
あるシステムを導入するのに評価をするという名目で検証しました。
私は検証結果から効果があるかわからないので導入を反対したのですが、もう検証にかなり作業をかけたので入れようという話になってしまいました。
それは論理がおかしいのではないかといいましたが、これもいわゆる空気のせいだったのでしょうね。
このケースはキーマンがそちらの意見に傾いたのが一番の理由ではあったのですが、このような不合理が起こってしまうのも空気のせいだったのかもしれません。


それでは西欧の人たちが論理的かというと必ずしもそうではありません。
本の中で新井白石が外国人の宣教師と会話した話がでてくるのですが、白石はその宣教師に聡明な部分と愚かな部分があることに気がつきます。
彼は非常に論理的で理路整然とした議論ができるのに「聖書にかかれていることが全て正しい」という非論理的なことも言います。
著者はこのことから論理的な部分と非論理的な部分は表裏一体のものではないかといいます。
明治以降の日本は海外のいいものだけを取り入れてきましたが、その基本となる考え方は捨てました。
科学的手法や民主主義など成果物だけ学んで、なぜそれらができたのかを学ぼうとはしませんでした。
それがポリシーのない日本人の特性を作り出したのかもしれません。
明治時代も戦後もそうでしたが、早く先進国に追いつこうとしていた日本にとって歴史や思想まで学んで消化する余裕はなかったのでしょう。


私は受験勉強のとき、この疑問を持ったことをこの本を読んで思い出しました。
数学を勉強しているときなぜ足し算より掛け算を先にするのだろうとか、物理を勉強しているときなぜ電流はマイナスからプラス(逆?)から流れるのだろうとか考えてしまう人でした。
先生に聞いてもそのように覚えなさいといわれましたし、そんなことばかり考えていると勉強が全然進みませんでした。
しかし、それを発展させると数論や量子物理学までやることになってしまうでしょうけどね。
ただ、日本の教育が表層的だと思うところは同感しました。


しかし、著者の知識の広さには驚嘆してしまいます。
社会問題からキリスト教に関する知識、政治などかなり深い知識を持っています。
太平洋戦争では兵士としてかなり過酷な状況で戦った経験もありそれだけ日本に対して批判的なのでしょう。
でもその中に日本を愛する心が見えるような気がします。


これからグローバル社会になっていく世界で日本はやっていけるのでしょうか?
著者はこの日本人の性質では国は鎖国へ向かうと予測しています。
現状の日本はそちらの方に向かっているように見えますね。
しかし、それではガラパゴス諸島の生き物たちのように進化から取り残されていくでしょうね。
これから私たちがやるべきことは明治維新から置き忘れてきた自分たちの根本思想を見つけることなのかもしれません。
それをどうやって見つければいいのか見当もつきませんが、これからグローバルな世界で生きていくためには必要なことだと思います。