世界はカーブ化している グローバル金融はなぜ破綻したか

世界はカーブ化している グローバル金融はなぜ破綻したか世界はカーブ化している グローバル金融はなぜ破綻したか
田村源二

徳間書店 2009-05-19
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金融危機を題材にした本はたくさん出版されいていて少々食傷気味ですが、この本はこれからの金融システムについて真っ当な主張をしています。


最初に本屋で立ち読みしたときに目についたのが日本の失われた10年についての部分でした。
日本政府が間違った政策をうったために日本をデフレスパイラルに陥れ、経済が停滞してしまった経緯を詳しく解説しています。
要はすばやく手を打たなかったのが一番の敗因だったということです。
不動産価格の高騰を抑えるために政府は総量規制で資本の流動性を制限しました。
その時期にはすでに不動産価格が下がっていた時期でしたが、価格下落に拍車をかけたのでしょうね。
そして、バブルがはじけて信用不安が起こっているのに金利を下げたり金融機関を支援したりなどの対策を素早くとりませんでした。
税金で銀行を助けることに対して国民に拒絶反応があったことも遅れた理由かもしれませんが。
この時期をうまく乗り切れていれば日本の経済はもっと繁栄していたかもしれません。


アメリカは今回の金融危機で日本と同じまちがいは犯しませんでした。
すばやく対策を打って被害を最小限に食い止めたのではないでしょうか。
しかし、次の金融危機をどう抑えるかはまだ考えられていないようです。


私が読んだ中で印象に残ったのは以下のようなところでした。


1 金融のグローバル化で資本は瞬時に移動するようになった
ちょっと前なら銀行からお金を引き出すのは窓口までいって手続きしないとできませんでした。
しかし、IT技術の進歩によりコンピューター上で瞬時に多くの資金を国境を越えて移動させることができるようになりました。
したがって、信用不安が起こると大きな資金移動が発生し経済が不安定になってしまいます。
今までは各国の中央銀行が協調すれば抑えられていたこともいまやファンドや投資銀行がレバレッジをかけて取引をしているので政府がコントロールできない状況になっています。


2 金融危機をきっかけに階級闘争が激しくなりグローバリゼーションが危機に瀕している
今回の金融危機によって資本家対労働者の対立が各国で起きています。
アメリカでもグローバリゼーションはまちがっていたという論調が強くなりつつあり、保護主義へと傾きつつあります。
(日本でも蟹工船や資本論などの本が売れているのを見るとアメリカと同じ状況なのでしょう。)
しかし、この20年くらいの繁栄はグローバリゼーションによってもたらされたものです。
これを捨てるということは未来の繁栄も捨てることになります。
これからは労働賃金による収入は減っていきます。
従って今労働によって大半の収入を得ている人たちをいかに資本提供の側にきてもらうかが階級闘争を避ける唯一の道です。


3 グローバル資本主義は欠点も多いが貧困を減少させ世界を繁栄させてきた
グローバリゼーションによって資本が世界中を動き回るようになると、バブルや金融危機がおきやすくなります。
アメリカのITバブルや今回の不動産バブルも世界中からアメリカに集まってきた資本が原因です。
しかし、アメリカがここ20年繁栄できたのは海外からの投資があったからです。
従ってグローバリゼーションを否定するのではなく、欠点をうまくかわしながらつきあっていくべきなのです。


4 金融のグローバル化によって新しい価値を生み出す起業家に資本を供給すべき
起業家はリスクを取って新しい価値を創造してくれます。
彼らが新しい製品や新しいマーケットを作り出します。
従って彼らにいかに資本を供給するかが世界を豊かにするキーとなります。
それには金融のグローバリゼーションが必須となります。


著者は今回の危機の最大の原因は銀行の強欲だといいます。
サブプライムなどというほぼ回収不可能な債券を転売するというのはプロとして無責任としかいいようがありません。
私の回りでも拝金主義が横行していて、企業人や社会人としての倫理観や信念みたいなものがなくなってしまったように感じます。
お金は企業や人の生活を継続させるには必要なものですが、金を儲けるためには何をやってもいいと考えるようになったらおしまいだと思います。
いまこそ松下幸之助渋沢栄一など苦労して日本の経済に貢献した人たちの考え方を見直す時期なのかもしれません。