21世紀の歴史

21世紀の歴史――未来の人類から見た世界21世紀の歴史――未来の人類から見た世界
林 昌宏

作品社 2008-08-30
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NHKで「ハゲタカ」が再放送されたときにサブプライム問題から端を発した金融危機を予想した人としてジャックアタリ氏のインタビューを見ました。
彼が2年前に書いた本がこの本で、これから世界はどうなるかを大胆に予想しています。
この手の予想本はノストラダムスの大予言みたいに根拠のないものが多いのですが、彼のアプローチは人類の歴史から推測しているのでまっとうな考え方だと思います


本の前半は人類発生から近代までの政治や資本主義の発展を説明しています。
ここでのポイントは資本主義の繁栄は時代とともに場所を変えて起こっていることです。
世界最初の資本主義が発生した都市はブルージュという場所でした。
しかし、その後繁栄はオランダやイギリス、そしてアメリカの都市へ移動していきます。
これだけ場所が移動するのは資本主義が繁栄するには条件が厳しく、それを満たさないと繁栄が終わってしまうからです。


その条件はいくつかあるのですが、その中でも重要なのが多様な人種の人たちを受け入れるということです。
かつて繁栄したローマ帝国モンゴル帝国も多様な人たちを受け入れて活用しました。
その点では移民を多く受け入れたアメリカが繁栄するのも歴史の法則にあっていることだったのでしょう。
それに比べ日本は外国人をできるだけ排除する政策を取っています。
海外旅行をして先進国でこれだけ外国人をみない国はありません。
著者も日本が資本主義の国として繁栄することはないと予言しています。
ただ、アメリカもいまや最も移民しにくい国となってしまいました。
アメリカも日本同様これから凋落していく国なのかもしれません。


この本の後半はこの歴史観をふまえて世界がこれからどうなっていくかを予想しています。
著者はマルクス経済学を評価しているためか資本主義に関しては悲観的です。
かといって社会主義もだめだと考えているようです。
そして、これから資本の論理が最も重要だとする考え方が一般的となり世界が混乱すると予測しています。
確かに今年破綻した投資銀行や金融機関を見ていると多くの企業が儲けることばかり考えて社会にどういう影響があるかなど全く考えていませんでした。
また、本の中でこれから保険会社が資本主義を支配していくと書いていましたが、アメリカの保険会社を見ていると金儲けしか考えていなくて、社会にどう貢献するかなど微塵も考えていないように思えます。


しかし、著者はこんなことは継続不可能だと考えているようです。
いつかは利益第一主義の考え方は廃れて超民主主義の時代へ移行すると予測しています。
それがどういうシステムなのかは具体的にはわからなかったのですが、社会起業家が行っているスタイルに近いのかもしれません。


有名な経営者は企業は株主のために利益をあげなければいけないといいます。
しかし、自分が経験した中では現場の人間で株主のために働こうと思っている人は見たことがありません。
経済システムの中で株式会社というのは偉大な発明だったのでしょうが、人間が元々持っている本能とはなじまない部分が多いのかもしれません。


企業の利益はビジネスを継続するためには必要なものです。
株主から投資してもらうのも企業が存続するために必要でしょう。
しかし、企業で働く人たちは自分たちの収入を確保し幸せに人生を送りたいから働いているだけです。
資本主義の行き過ぎは企業で働く人たちにとっては好ましくはないのでしょうね。。


資本主義は人間の欲をエネルギーとして多くの問題を解決したシステムだと思います。
しかし、経済のグローバル化やIT技術の発達、金融資本主義の台頭などにより資本主義の負の部分が強くなってきたように思います。
これからはその資本の力を世界レベルで制御していかないとまた戦争が起こるかもしれません。
どんな未来を目指すのか、今考える時期にきているのかもしれませんね。