日本のIT業界はなぜだめになったか

元ベンチャー起業家で現在金融関連のセミナーをやられている板倉さんのブログをいつも読ませていただいています。

ITAKURA’s EYE 「ネットビジネスモデルの条件(その2)

この中でご本人がやられていたビジネスとしてゲームの請負開発の話があったのですが、あまり儲かるビジネスではなかったそうです。
私も一プログラマーとして受託開発業務をやったことがありますが、受託開発は大変な割にはそんなに儲かるビジネスではありませんでした。
なのに多くのIT企業が受託開発を行っています。
また、企業によっては受託開発に見切りをつけて派遣ビジネスに移行したところもあります。
その派遣も今いろんな問題が出てきています。
そこでITのビジネスモデルの問題を下の表のようにまとめてみました。

































スケールアップ容易性 定期収入性 差別化傾向性
受託開発
人材派遣
パッケージソフト
ウェブサービス(SaaS)



ちなみに比較項目は以下の通りです。

  1. スケールアップ容易性 - 少ないコストで規模拡大ができること

  2. 定期収入性 - 定期的に収入が得られるビジネスモデルであること

  3. 差別化傾向性 - 常に差別化するインセンティブが働くこと

まず、スケールアップ容易性はソフトウェアのコピーコストがほぼゼロという特質を生かしているかということです。
その点から言うと受託開発は顧客に個別に開発するため横展開しづらいビジネスです。
また、人材派遣は人を貸すビジネスですのでこちらも生かしてませんね。
パッケージソフト売りはコピーのコストはかかりませんが、マニュアルや記録媒体をパッケージ化して小売店においてもらわなければいけません。
いまどきはダウンロード販売というのがあるのでその場合は低コストで広く販売することができます。


次に、定期収入性ですが経営的には不定期に大きなお金が入ってくるよりも少なくても定期的に収入があるほうが安定します。
どれくらい会社の固定費がかかっているかにもよるとは思いますが、解雇しづらい日本の企業では定期収入性は経営するものにとって重要なポイントでしょう。
その点では受託開発は落第です。
受託開発は基本的にはものが完成しないとお金になりません。
つまり、キャッシュが発生するまでの時間が長過ぎるのです。
途中で分けてお金をもらうという方法もあるでしょうが、顧客としては納品物がないのにお金を払うのはかなり抵抗があるでしょう。
また、常に案件を見つけてこないといけないので一つの案件が終わったら次の案件を探すための営業をしなければいけません。
だまってても仕事がくる時代だといいでしょうが、今のような状況では受託開発で安定した経営を行うのは不可能でしょう。
その点、人材派遣は毎月必ずお金が入ってきます。
ただ、昨今の派遣切りなどの状況を見るとこれからは派遣ビジネスも難しくなると思われます。
やはり収入安定性でこれから有望なのはウェブサービスです。
salesforce.comなどを見てもわかりますが、SaaS系ビジネスは月々固定で入ってくるので安定したビジネスを行うことができます。
問題は多くのユーザーが使いたいと思うサービスを提供できるかというところでしょうね。


そして、差別化傾向性ですがこれは他社と差別化することによって飛躍的に利益があがるかどうかということです。
受託開発や人材派遣は技術力など多少の差別化はできるかもしれませんが、顧客から見るとどこもあまり変わりません。
その点、パッケージソフトは差別化しないと売れないでしょうから機能や性能で差別化しようとする傾向があります。
ウェブサービスが△なのは、ある程度ユーザーを獲得してしまうと差別化する努力をしなくなる企業が結構多いからです。
そして、あるときユーザーを一気に失うことになりがちです。


このように分析してくるとまず受託開発と人材派遣はビジネスモデル的に問題があることが見えてきます。
私はこの2種類のビジネスを体験しましたが、実感として不安定で労力の割には儲からないという感じです。
また実際の労働量もさることながら、奴隷的扱いを受けることが多いので精神的につらい状況になることが多いように感じます。


これからはウェブサービスを基本とした月額課金モデルがIT企業にとって最も望ましいビジネスモデルでしょう。
しかし、このモデルもいくつかの欠点があります。
まず、低資本ではじめられるため参入障壁が低く競合が多く現れる傾向にあります。
また、サービス提供者としての責任がありますのでいったん始めると儲からなくても簡単に撤退することができません。
前者に対してはいまはやりのフリーモデルで多くのユーザーをいちはやくとりこんで、競合他社に負けないサービス品質や価格モデルを提供すれば先行者としての競争力は維持できると思います。
後者についてはクラウドなどを利用して設備投資費を削減し、さらに作業をできるだけ自動化して運用コストを下げます。
そうすれば固定費や変動費の損益分岐点を下げることができるので利益をあげやすくなると思います。
とにかく、月々お金が落ちてくるモデルにすることが一番重要です。


ITビジネスは文字通りInformation-情報を扱うビジネスなのにTechnology-技術がメインになってしまった傾向がありました。
しかし技術は手段でしかなく、情報によっていかにユーザーに利便性を提供できるかが重要です。
そして、これからのITビジネスは今までの延長でやるのではなく、新しい時代がどうなるかを考えながら行動して行く必要があると思います。