傍観者の時代

ドラッカー名著集12 傍観者の時代 (ドラッカー名著集 12)ドラッカー名著集12 傍観者の時代 (ドラッカー名著集 12)
ピーター・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2008-05-16
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いつも読ませていただいているfinalventさんのブログで紹介されていたので読んでみました。
「ドラッカーを学ぶための3冊」
http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20100503/1272845696


多くのドラッカー好きな人たちから一番人気のある本らしいのですが、内容はとても読みやすくて面白いと思います。
ドラッカーといえば経営学の創始者として有名ですが、この本は自伝のような内容になっています。
内容としては著者が実際に会った人たちについて語ったものです。
これを読んで思ったのは、知識より知恵の方が生きていく上では価値があるということでした。


私が一番印象に残っているエピソードは最初に出てくるおばあちゃんの話です。多分ドラッカーのおばあちゃんだと思うのですが、何かと世話好きでよく説教する人だったそうです。
(日本でも近所のおばちゃんとかでそういう人がけっこういましたよね。)
ドラッカーはオーストリア出身なのですが、そのころのヨーロッパは古い体制から新しい時代に変わろうとしていたころでした。
その中でおばあちゃんは古い時代を代表するような人でした。
おばあちゃんはある若い女性のだらしない格好をみてもっとこぎれいな格好をしてしゃんとしなさいと説教します。
それは、この世の中は男性が主導権を握る世界であり、女性はそれを意識して生きるべきだと信じていたからなのだとドラッカーは観察します。
いまは男女同権と言われていますが、いまだに男女差別はありビジネスの世界で女性が活躍する場は限られています。
おばあちゃんは古い人だったのだけれども、時代が変わっても変わらないものがわかっていたのでしょうね。


それと対照的なエピソードはカールポランニーの話です。
元々はドラッカーがオーストラリアで働いていた新聞社の上司だったのですが、とても才能豊かな人でした。
カールには他にも4人の兄妹がいたのですが、みんな天才的な才能を持っていて4男のマイケルポランニーはノーベル物理学賞候補になるほどの人だったそうです。
カールはこの社会をよくしようと資本主義でも社会主義でもない第三の世界をめざそうとします。
しかし、現実をいろいろ見ていくうちにその実現が難しいことを思い知らされることになります。
例えば、カールはアメリカでの黒人差別をなくそうと考えますが、調べていくとアフリカで白人に奴隷を売っていたのは同じ黒人だったことを知ります。
学者の人たちは現実にうといのでそういうことに愕然とするようですが、一般庶民のほうがそういう状況はわかっているのかもしれません。
カールポランニーの挫折は天才ゆえにあまりにも現実から浮いてしまったのでしょうね。


今の日本でもエリートと呼ばれる人たちは正論をはきますが、現実を知らない弱さというのがあるような気がします。
現代でもどうしようもない状況を日々なんとかやっているのが一般の人たちの状況です。
ドラッカーはそんな状況を傍観者として見ていたのではないでしょうか。
そして、彼はオーストリアで少し働いた後にヒトラーから逃げるためにアメリカへわたります。
そういう激動の時代を生きてきた人の半生だからこそ多く人にこの本が読まれるのだと思います。


どんなに文明が発達しても、人間は所詮もとは猿だった動物です。
教養や知識を高めることはいいことですが、生きるために本当に大事なことは一生懸命生きることでしか学べないのではないでしょうか。
この本を読んでそんなふうに思いました。