資本主義がエンジニアをだめにするのか

企業は利益をあげなければいけません。
したがって、売り上げを最大化し経費を最小化する圧力が常にかかっています。
通常売り上げを増やすのは非常に難しいため、経営者は経費カットという安易な方に流れがちです。
それが妥当な理由だといいですが、現場のわからない人たちが予算を組むために現場では綱渡り的な状況で業務を行わざるを得なくなっているところも多くあります。
そのような状況がエンジニアをだんだんだめにしていっているのではないかと感じるようになりました。


その典型が福島第一原発でしょう。
あの原発の話を聞いて、かつてエラー処理が入っていないプログラムを作った業者の話を思い出しました。
どちらも通常の状態では問題なく動いていますが、何か非常事態が起こったら致命的な障害が発生します。
程度の差はあるでしょうが、この二つは同じ構造を持っています。
プログラムのエラー処理も原発の災害対策もコストがかかります。
しかし、資本主義の世界ではコストを嫌うために都合の悪いことはみないというバイアスがかかります。
特に企業のような組織では内部で危ないと個人が警告してもトップの意向や組織内の空気によってつぶされてしまいがちです。


また、エンジニアリングは資本主義とはなじまない部分があるのではないかと思います。
IT業界ではマイクロソフトやシスコが大きくなりましたが、彼らの製品はバグという欠陥がたくさんあり長期間それらが放置されていることは業界の人はみんな知っています。
どちらの会社もマーケティング優先のビジネスで生き残ってきたので製品の品質は二の次になってしまったのでしょう。
他方、Linuxをはじめとするオープンソースプログラムは非常に品質のいいものになりました。
(そうでもないという意見もありますが。「オープンソースは品質が良い?」
もちろんオープンソースにもバグはあって使えるようになるまで時間がかかりますが、多くの人がソースを見ることができるため誰かが修正してだんだん改善されていく性質があります。
また、オープンソースはエンタープライズ方面が弱いといわれますが、現場で多く使われていくにしたがって品質はあがっていくものと思われます。
オープンソースの世界を見ていて思うのは本当にやる気のあるエンジニアが作らないといいものはできないんだなということでした。
エンジニアにとっての本当の報酬はストックオプションやボーナスではなく面白い仕事なのだと思います。


また、資本主義がエンジニアにとってよくないのは、内部を隠蔽する傾向があることです。
資本主義社会で企業が生き残るためには希少性や差異が重要になります。
つまり、そこでしか買えないとか他社とは違うというところがないとお金儲けができないということです。
そうすると企業は内部を隠蔽したり、特許などで権利を守ろうとします。
たとえばマイクロソフトなどのソフトウェア会社は自社製品のソースコードを公開していません。
そうするとエンジニアはそれらの製品をブラックボックスとして扱わざるをえなくなります。
その結果、コンピューターがどう動いているかとかソフトウェアはどう作られているかを全く知らないエンジニアが増えてしまいました。
これもシステムがちゃんと動いているときはいいのですが、何かトラブルが起こるともうお手上げになってしまいます。
福島第一原発でベントが遅れた理由はマニュアルを見ながらの操作が基本だったため、手動で排気弁をあける方法を調べるのに手間取ったからだったそうです。
もし、発電所の内部に詳しい人がいればメルトダウンは起こらなかったかもしれません。


これは資本主義に対する一方的な見方かもしれません。
資本主義にもいい面があって自由に誰でも市場に参加できるというのは民主主義にも通ずるすばらしい点だと思います。
しかし、グローバル化が進んで毎日利益に追われる人生が幸せなのかと個人的には疑問を感じます。


そんな中でそういう資本主義に対抗しようとしているIT企業も出てきました。
Googleはその最初の企業かもしれません。
彼らは会社の支配権を手放さないように優先株という方法を用いました。
優先株とは議決権の強い株です。
今はかなり希薄化してると思いますが、IPO当初は創業者はかなりの支配権を持っていました。
また、Facebookも創業者が投資家から追い出されないようなスキームを組んでいるそうです。
シリコンバレーの創業者の多くはVCに煮え湯を飲まされているので学習したのでしょうね。
こういうのを見るとこれからは資本主義をうまく制御できるような社会になるかもしれません。


これからはエンジニアも自己主張していかないといけない時代なのだと思います。
そして、金儲けが全てに優先する社会ではなく、働く人や消費者そして社会全体がよくなるような社会にすべきだと思います。

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