21世紀の教育システム

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photo credit: Shanghai Daddy via photopin cc


Karn Academyというサイトをご存知でしょうか?
これはアメリカのNPO団体が運営している学校で学ぶ内容をYouTubeビデオに公開しているサービスです。
小学生レベルから大学レベルの内容を網羅していてかなり高度です。
TED.comでのプレゼンテーションはこちらです。


TED.com ビデオを使って教育を再発明しよう


このサイトの主催者は現在の教育はあまりに非人間的で学校の都合で行われていると批判します。
Karn Academyでは生徒は自分のペースで好きなときに好きな勉強ができ、わからないところは何回でもリプレイして見ることができます。
私も学校でわからないところが出てきてだんだんついていけなくなり勉強がいやになった経験があります。
現実的にクラスの全員に理解させるというのは現在のシステムでは不可能でしょう。
でも、学校で教える内容がネット上に公開されればそれが可能になりますし、日本や世界の優秀な先生の講義を誰でも見ることもできるようになります。
これは教育システムが革命的に変化する前兆なのではないかと思います。
そこでふと思い出したのが私が以前から持っていた以下のような疑問でした。


なぜ入学試験をするのか
これから勉強するために入学するのになぜ入学試験のための勉強をしなければいけないのか私は明確な回答を聞いたことがありません。
そこで勉強できるくらいの基礎ができてるか見るためだとか学校もキャパシティが限られているので仕方なく選んでいるとか言われることもありますが、私は今までの経緯でそうなっているのだと思います。


もともと選抜試験というのは中国の科挙がその元となっています。
1400年前くらいに中国では隨という王朝が国を支配していましたが、国を治めるために優秀な官僚が求められていました。
しかし、それまでは貴族の子弟が無条件に官僚になっていたため、ばかでも偉い官僚になれるという状況だったのです。
それでは国が乱れると考えた王は試験で優秀な人材を集めることを考えついたのです。
日本でも明治から官僚の選抜を試験で行うようになりましたが、科挙を参考にして作られたようです。
これはいままで血縁でしか選ばれなかったのが、勉強すれば立身出世の道が開かれたということでエポックメイキングなことだったと思います。


しかし、21世紀になってもいまだにその封建時代のやり方を続けています。
いまや世界はグローバル化し、新しい知識がかつてない勢いで考え出されています。
例えば、最近アメリカのスタンフォードがネット上でコンピュータサイエンスの講義をはじめましたが、そこで教えられていることはもう5年前の知識であったりします。
私が働くIT業界では5年といえば2世代ほど前になってしまいます。
つまり、今の教育システムが現代の状況にあっていないということです。


なぜ6334制なのか
また、小中高大と学校を分けるのもなぜかわかりませんでした。
これも歴史上そのようになってしまったようです。
戦前に旧制学校のシステムがあり、戦争に負けてGHQの支配のもと、現在の6334制が決められました。
戦前は高等教育は軍人や官僚を育てるために行われていましたが、戦後はより民主的な色彩が強くなったのだと思います。
学校を分けるのも学校側の都合でそうなっているのでしょう。
つまり、教える内容が上に上がるほど高度になっていくのでそれに見合った人材を配置しなければいけないということです。
これは、工場システムの分業体制と同じで学校の先生は毎年同じことを教え続けることになるため専門化しやすいということだったのでしょう。
しかし、企業を見ればわかるように同じことの繰り返す仕事は機械のほうが低コストでできるためいずれは機械にとって変わられる運命にあります。
教育は人間がやらなければいけないと言われるかもしれませんが、Karn Academyの利用者が学校よりも人間的だと言っていることの意味を考えるべきでしょう。


そして、6334制の最大の欠点は上の学校へあがったときにそれまで生徒が何を学んでいたかという知識が引き継がれないということです。
例えば、小学校から中学校に上がった生徒について中学校の先生はその生徒がいままでどんなことをどんなふうに勉強してきたか全く知りません。
それは、高校や大学でも同じです。
だから、入学試験で選別するということを行う必要が出てきます。
しかし、そもそも学校を分ける必要があるのか、この情報化社会の時代に情報の共有化をなぜ行わないのかと思います。
Karn Academyでは実験として生徒が何を勉強したかの情報をウェブ上で共有するプロジェクトを地域の学校と行っています。
このシステムがあれば学校を分ける必要もなく、そういった学校さえも必要なくなるかもしれません。
自分の学習履歴をもって好きな先生や組織のところへ行って学べばいいと思います。
そう考えると教育機関は最も情報化が遅れている組織かもしれません。


こんなことを考えているとふと新しい教育システムのイメージが思い浮かんできました。
ジャストアイデアですが、思いつきを書いてみます。
まず、6334制をやめ、学ぶフェーズを以下の3つのカテゴリーに分けます。
(タイトルが男性オンリーな感じですが年齢でカテゴリー分けしているだけですので、女性も含まれているとお考えください。)


少年期(5才くらいから12才くらいまで)
この時期は従来の小学校に似た読み書きや計算など基本的な内容を教えます。ただし、かつてのような画一的なやり方ではなく、それぞれの生徒にあったペースでできるように配慮します。まだ子供なのでしつけ的な教育が必要な時期でしょうね。
青年期(12才くらいから20才くらいまで)
この時期は好きなものや向き不向きがだんだん分かってくる時期です。この時期はいろんなことに興味がもてるようにして、自分の好きなことをはやく発見できるように手助けします。
なので、文系理系などに分けることはやめるべきでしょう。
また、テストなどである程度はプレッシャーを与えて学ぶくせをつけてあげることが必要な時期でもあります。
成人期(20才以上)
この時期はもう教わるのではなく自分からテーマを見つけて学べるようにします。そして、いわゆる卒業というのはありません。現代は死ぬまで学び続けないといけない時代です。働きながらでも学べる環境を用意する必要があるでしょう。


また、新しい時代にあった教育システムを作る上で必要なことがいくつか考えられます。

  • IT技術を使った効率化による教育コストの低減

Karn Academyを見てわかるように、動画などの大容量のコンテンツもインターネットによって安価に配信できるようになりました。
また、Facebookなどのソーシャルネットを組み合わせることにより、人と人との出会いを促進することもできるようになりました。
もはや、今までの学校のような建物が必要なくなり、教育コンテンツの共有化や作業の自動化がIT技術によって可能となります。
これにより、劇的なコスト削減が可能となるでしょう。

  • プロフェッショナルスクールの創設 

ただ、従来型のハンズオンで教える組織も必要な分野があります。
例えば医師や特殊技能のエンジニアなど職人的な分野の専門家はある程度は旧型の教育システムでやらないといけないでしょう。
ただ、ハンズオンでなくてもいい部分はITを使ったシステムでかなりコスト削減できるものと推測されます。
また、弁護士や政治家、会計士などの知識だけではなく倫理観が重要となってくる職種も同じようなシステムで学べるようにしたほうがいいかもしれません。

  • 新規参入を促すための自由化

電力業界と同じように、現在の日本では教育は国が独占的に行なっている事業です。
私立学校も国の補助金によって成り立っているため実質国の組織の一部と考えられます。
そして、教えるためには教員免許が必要になり学校運営も認可されないと行うことができません。
これも私がわからない部分なのですが、なぜ人を教えるのに許可が必要なのでしょうか?
おそらく、歴史的経緯でかつて国を統治するために教育システムの支配は必要不可欠だったからでしょう。
しかし、このグローバル化した時代に国内のことだけ考えるやり方はもう時代遅れです。
Karn Academyの創設者は最初、自分の姪に勉強を教えるためにビデオをYouTubeにあげたのがはじまりだったそうです。
自分の知っていることを教えることは免許がなくてもできます。
そして、企業やNPO法人などやる気のある人たちの参入をこれからは自由化すべきでしょう。
そうすればもっと質の高い教育サービスが提供されるようになり、競争することによってコストも低下していくでしょう。


戦後、日本は企業社会になり立身出世する入り口としていい大学に入ることが幸せな人生へのパスポートだと思われてきました。
しかし、多くの人たちが大学に行くようになり、その上先進国の失業率が恒常的に高くなっている現状を見るともはやその戦略は通用しなくなりつつあります。
これは大量生産大量消費を前提にしていた企業がその時代が終わって調整局面に入ってしまったからでしょう。
そう考えると、これからは特に先進国では企業社会からフリーエージェント社会へと移行していくでしょう。
つまり、個人が業務を遂行する能力だけでなく、顧客を創造する能力も問われる時代になりつつあるということです。
それは、かつて企業が求めていたスキルとは違って、創造力や自分で考える能力が重要になってきます。
そして、企業に雇用される以外のワークスタイルが増えてくれば、学歴による選別が減り、より実務的なスキルが問われる時代へと移っていくでしょう。


学ぶということは本当は楽しくて幸せを感じられることだと思います。
私は三角形を基本とする幾何学の美しさに魅了され、いつもわだかまりに感じていたことを哲学によって考えることができるようになり、過去の偉人たちが実は普通の人だったと知って驚いたりなど学ぶことは本当に楽しいことだと感じています。
しかし、ほとんどの人は学位や資格を取得していいポジションにつくことしか考えていません。
それはそれで学ぶきっかけを持てたということでいいことではあると思いますが、もったいないなと思います。
また、それではやりたくもないのに学位や資格のためにがまんしてやるという不幸な状況になることもよくあります。
国や組織は思惑があって教育システムを作り出していますが、本当に好きなことは自分だけでも学べます。
子供のときは自分で選択するということは難しいかもしれませんが、今は大人になったら教育システムなどに頼らず自分でいくらでも学ぶことができる時代ではないでしょうか。
そうはいっても稼ぐためにやらなければいけないこともあるでしょう。
ただ、短い人生でいやなことをやり続けることにどれだけメリットがあるかを考えたほうがいいと思います。


今回はこんな教育システムがあったらいいなという妄想でこんなことを書いてみましたが、学びたいことがあれば自分で勝手に学べばいいし、そのほうが自分にあったやり方でできると思います。
見も蓋もない結論になってしまいましたが、また何か思いついたら書いてみたいと思います。

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