IT業界で派遣業が多い理由

 営業さんと話によると最近人出しの引き合いばかりだそうです。
大手のIT企業は人手不足らしくあちこちの会社で同じ引き合いがあるなんてことが結構起こっています。
いまや大手以外のIT企業はエンジニア派遣が主な業務になっているようです。


 これはITビジネスの性質が関係していると思います。
大まかに分類してITビジネスはソフトウェア開発、システムインテグレーション、運用に分けられます。(他にも色々あると思いますが。)
 ソフトウェア開発の場合、要件分析、設計、実装、テストといった工程を経てお客さんに納品されます。
ソフトウェア開発を請負で受けた場合、決められた予算内で顧客の満足する品質のソフトウェアを開発しなければいけません。
そして予算が限られているので期間も限定されてしまいます。
しかしソフトウェア開発プロジェクトを完遂させるためには様々なリスクがあります。
例えば技術的に難しかったり、思ったほどのパフォーマンスがでなかったり、キーとなるエンジニアが病気で倒れるなど様々なリスクを伴います。
そしてそのリスクに見合う見返りがあるかというとそんなにありません。


 請負のソフトウェア開発は顧客ごとに個別にソフトウェアを作ることになりますので横展開がしづらいビジネスです。
もちろん共通ライブラリやマスターした技術など使いまわしできる部分もあるでしょうが、業務全体から見た場合そんなに大きな割合ではないでしょう。
したがって顧客ごとに一からやり直す形になってしまいます。
 そしてさらにリスクなのが支払いサイトの長さです。
最近では3ヶ月でカットオーバーする短期プロジェクトが増えていますが、それでも検収後請求して入金されるまでさらに2ヶ月くらいかかってしまいます。
トータルで営業から考えると半年以上かかってしまいます。
これだけスパンが長いと小さな会社ではキャッシュフローがまわらなくなるリスクが増大します。


 システムインテグレーションでも状況は似ています。
システムインテグレーションでは提案フェーズがとても長くて、ほとんどの案件は他社とのコンペになるため受注できる割合はかなり低くなります。
SIの場合あまり他社との差別化ができないため結局は価格勝負になることが多く、自然と利益もうすくなりがちです。


 このような状況ではソフトウェア開発もSIも会社に体力がないとやっていけないビジネスです。
したがって大手のIT企業はマッチするエンジニアがいないかいろんな会社に依頼します。
そして中小IT企業は大手にエンジニアを派遣して月々の派遣費用で稼ぐという形におちついてしまいます。


 派遣ビジネスは月々確実にお金が入ってくるし、支払いサイトも通常その月締めの翌月末払いだったりするので経営的に安定したいいビジネスと考えられます。
 しかし、派遣ビジネスには大きなリスクがあります。
まずビジネスとしては差別化がまったくできないため金額での勝負になります。
もちろん派遣エンジニアの質によって単金をあげることは可能ですが、それは個人についての差別化なのでその人がやめてしまうと終わりです。
はっきりいってしまうとできる人なら会社を通さないで自分で交渉して仕事を受けるでしょう。


 いまや日本のIT業界は人材斡旋業が主流になってきています。
かつては日本でも面白いIT企業があったのに2000年以降急速に業界の質が変化してきたように感じます。
この状況は業界を危機的な状況に陥れるのではないかと心配しています。
いまや日本のIT業界は世界での競争力という点で考えるとほとんど競争力はないと思います。
ビジネスで成功するためには他社との差別化が必須です。
同じようなビジネスをやっていては価格競争しか生き残る道はありません。
しかし世界レベルで見ると日本は人件費が高いので生き残ることはできないでしょう。
かつてアメリカの経済学者は日本を機関車に例えていました。
自動車や電機など世界で競争力のある企業が国の産業を引っ張る機関車でその他の産業はそれに引っ張ってもらっている貨車だという意味です。
日本のIT業界もその貨車のひとつだと思います。


 私もこの業界にエンジニアとして働いていますが、一人のエンジニアとして仕事がつまらなくなっている状況に危機感を感じています。
そもそもこの業界に入ってきたのは仕事の内容に魅力を感じたからなのに、いまはそれを感じることができなくなってしまいました。
その原因はこのようなIT業界の性質も大きく関係していると思います。


 しかし嘆いていても何も変わらないのでまずは自分のやれることからはじめていきたいと思っています。
日々雑事に追われてやりたいことができない今日この頃ですが、この業界に入った頃の気持ちを忘れずにやっていきたいところです。