地頭力を鍛える

地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」
細谷 功

東洋経済新報社 2007-12-07
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「日本全国の電柱の数はいくつか?」、こんな問題を推測だけでどこまで正確に割り出せるのでしょうか?
この本ではフェルミ推定という方法を使って限られた情報でいかに予測するかについて書かれています。
いまやインターネットを使えばたいていのことは調べることができますが、そんな状況が論理的思考を停止させていると著者は警告しています。


フェルミ推定を行うための必要な能力としては3つあります。


1 仮説思考力


科学の世界では研究を行う場合、仮説をたてて実証していくというアプローチをとります。
これは結果はこうだろうと決めつけてその裏付けを探すことです。
ビジネスの世界でもこのような方法が必要になります。
例えばある業界でシェアの50%以上とるためにはどうするかとか売り上げを100億以上にするためにはどうするかなど結果の状態から逆に考えていくというアプローチです。


2 フレームワーク思考力


物事を考える場合は全体を俯瞰してからブレイクダウンするほうが正確な推測ができます。
電柱の問題でも自分のまわりの状況からボトムアップで考えていくと偏った考え方になりがちです。
日本の国土面積や世帯数などから割り出した方がアプローチとしては偏りはないでしょう。


3 抽象化能力


実際の物事は様々なものが複雑に絡み合っていて理解が難しいものです。
そういうものを扱う場合は単純化して知りたい事象に関連のあるものだけを抽出するという作業が必要になります。
よくモデルを作るといいますが、複雑なものを単純化して考えることが物事を理解する上では重要になります。


この本の中でも出てくるのですが、シャーロックホームズがフェルミ推定を使って推理をやっています。
私が読んだなかで赤毛同盟という話があったのですが、犯人が残した暗号を解読するのに英語ではeというアルファベットが一番文章で使われるというところから全ての暗号を解読してしまうというのがありました。


現実の世界では十分な情報や時間がない場合でも判断しなければいけないことが結構あります。
以前、私が関わった開発プロジェクトもそういうことがありました。
そのプロジェクトは最初からカットオーバーの日が決まっていましたが、まだ要件定義もできない調査の段階でした。
こういうプロジェクトは間違いなく火をふくプロジェクトの典型なのですが、概算の工数見積もりをできるだけ早くやる必要がありました。
なのでとりあえず必要となる大まかな機能をリストアップしてそれぞれの機能ごとに要件定義、設計、実装、テストでどれくらい作業がかかるか概算で工数を出しました。
もちろん重複している工数や雑多な作業などが抜けているのですが、抽象化して細かいところは無視してとりあえず出してみました。
その結果、今のリソースでは予定日にカットオーバーは難しいという結論になりました。
それをプロジェクトマネージャーに言ったところ、全く聞く耳をもたなくて残業をして是が非でも予定の日に完成させると言って聞きませんでした。
最後はこの人がプロジェクトの責任をとるからもうそれ以上は言いませんでしたが、このPMもフェルミ推定的な考え方ができる人であればよかったのにと思います。


このフェルミ推定というのは経営コンサルタントの面接で使われるそうですが、ITエンジニアも必須のスキルだと思います。
しかし、限られた情報で予測して判断しなければいけないITプロジェクトは多いのにこのスキルを持った人にお目にかかったことがありません。
ITの仕事って求められるスキルが多い割には経営コンサルタントほど待遇がよくないからそういうスキルを持った人が少ないのかもしれません。