ヒトデはクモよりなぜ強い

ヒトデはクモよりなぜ強い 21世紀はリーダーなき組織が勝つヒトデはクモよりなぜ強い 21世紀はリーダーなき組織が勝つ
オリ・ブラフマン/ロッド・A・ベックストローム 糸井 恵

日経BP社 2007-08-30
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 タイトルだけみると生物関連の本かなと思いきや実はITビジネスにかなり関係している本です。
この本ではクモ型組織とヒトデ型組織というのが出てきます。
クモ型組織とは普通の会社のようにピラミッド構造をしている組織です。
そしてヒトデ型組織とはトップがいないサークルのような組織です。
最近このヒトデ型組織がクモ型組織を打ち負かす事態が発生しています。
例えばNapsterに始まるP2Pのサービスは大企業から訴えられてもなくなりませんでした。
またクレイグスリストやウィキペディアのようなユーザーに権限を委譲したサービスに多くのユーザーがコミットしています。


この本を読んで思ったのはこんなことでした。


1 ルールが変わろうとしている


 音楽を売るためにはMGMやSonyのような大資本をもつレコード会社が必要でしたが、今やインターネットのおかげで音楽配信は誰でもお金をかけずにできるようになりました。
しかし、音楽自体ではお金儲けができなくなりつつあります。
これは音楽だけではなく映像やソフトウェアなどデジタル情報で表現できるものは全て同じです。
ヒトデ組織で生きて行くためにはやり方を変えないといけないのでしょうね。


2 人は基本的には善良だ(ただしお金が絡むと別)


 ウィキペディアのようなユーザーに権限を委譲しているサービスは基本的に人を信じています。
人は誰かの役に立ちたいと思うからこそ現在のような繁栄があるのだと思います。
人が自分のことしか考えない動物だったらとっくの昔に地球上から消えてたでしょう。
しかし、お金に関しては「人を見たら泥棒と思え」と考えた方がよさそうです。


3 インターネットが個人にパワーを与える


 今までピラミッド型組織が繁栄していたのは情報が一局集中していたからだと思います。
いい大学に入って大企業につとめることによって様々なコネクションができるのもその一つでしょうね。
しかし、いまやインターネットによって個人がいろんな人と情報をやり取りすることができるようになりました。
それは組織から個人へのパワーシフトだと思います。


 アメリカインディアンのアパッチ族がヒトデ型組織だったというのは知らなかったですね。
もしそのときにインターネットがあったらアメリカはインディアンの国になってたかもしれません。


 お金儲けで考えるとヒトデ型組織はやっかいなものです。
P2Pで音楽を配布されると提供側は儲からないですし、オープンソースでソフトウェアを配られるとソフト会社はつぶれてしまいます。
しかし、これからの時代はこの現実を直視して自分を変えて行くしかないでしょう。
ソフトウェアに関して言えば将来パッケージ売りは確実になくなると思います。(だいぶ先になるかもしれませんが)
そのかわりネット上でアプリケーションを提供するSaaSかクライアントにソフトウェアを配布する新しいサービスが出てくると思います。
それはソフトウェアの使用料として取る形になるでしょう。
そして一般的なソフトウェアはオープンソースソフトウェアとして無料で提供されるようになるので、より個別のユーザーに特化したソフトウェアを提供する必要に迫られるでしょう。


 おそらくビジネススクールで勉強したような人はついていけない世界かもしれません。
しかし、この本ではドラッカーの話が出てきます。
GMの内部調査をしてよりよい組織の形としてヒトデ型組織とのハイプリッドな組織への変革を提案したそうです。
しかしGMは変化を拒んでそのアイデアを取り入れたトヨタに負けてしまいました。


 後、思ったのがこれからのビジネスは金儲けだけ考えていてはだめだということです。
オークションサイトでかつてオンセールというサイトがありました。
ビジネスモデルは考え抜かれていてまちがいなく成功すると思われていました。
しかし、同時期に出てきたイーベイに駆逐されてしまいます。
イーベイはオークションの権限の大半をユーザーに委譲しました。
それに比べてオンセールは全てをコントロールしようとしたのです。
ビジネススクールで勉強したらイーベイのようなビジネスはあり得ないでしょうね。
 私はビジネススクールには批判的ですが、MBAで教えていることは勉強したほうがいいと思っています。
しかし、それを鵜呑みにするのではなく自分の頭で考えて批判すべきところは批判することが大事だと思います。
自分がいけなかったからやっかみも少しはありますけどね。(笑)


 ちょっと脱線してしまいましたが、結論としてはこれから希望が持てる時代になりつつあると思います。
つまり、いままでピラミッド構造の組織から取りこぼされていた人たち(私もそうですが)が活躍できる場ができるのではないかということです。
特に日本では官庁を頂点とした社会的なピラミッド構造がありますが、それが崩れて行くかもしれません。
そんな希望を抱かせてくれる本でした。