株式会社から新しい形へ

iPadiPhoneの人気でAppleはいまや飛ぶ鳥を落とす勢いですが、プログラマーにはAppleのやりかたは不評です。
iPhoneのアプリケーションを売ろうとするとApp Storeでしか売れず、Appleの審査で拒否されることもあります。
まず、あれだけのソフトウェアを一企業がちゃんと審査できるとは思えないですし、拒否した理由も明らかではないことが多いので適当にやっているのではないかと疑わしく感じます。
そして、Flashを動かせないようにしたのも理由がいまいちです。
また、Objective-CといういまやAppleしか使っていない言語を開発者に強制してくるのも不評の原因です。
開発者をMacプラットフォームで囲い込みたいためかどうかわかりませんが、できるプログラマーほどそのような強制には拒絶反応をしめすと思います。
またFlashですが、私も個人的にはFlashはオープンではないと思いますが、プラットフォームを提供している企業がその上で使える技術を限定するというのもプログラマーとしてはがまんならないことです。
自分であれこれやりたいからエンジニアになっているのでそれを制限するようなプラットフォームはプログラマーは自主的には選びません。


Appleの一連の行動を見ていて思ったのは、企業とはなんなんかということでした。
企業は利益を上げるための組織でその利益は株主に還元されます。
しかし、ステークホルダーとして株主以外にも社員、顧客、取引先などがいます。
これだけ利害関係者がいるとすべてをハッピーにすることなんて至難の業でしょう。
産業革命や大量生産の工場システムが確立した頃のように、ビジネスモデルが単純な時代であればみんながハッピーになることは簡単だったのかもしれませんが、現代のような社会が多極化した時代にはもう企業という形態自体が時代遅れなのかもしれません。
なぜならば、これからは想像力とかセンスなどお金では買えない能力が重要になってくるからです。


ダニエルピンクのモチベーション3.0という本には、お金が人々のやる気をあげないどころか下げる傾向にあることが書かれています。
例えば、パズルを何人かの人に解いてもらう実験ではグループに分けて行ないます。
最初のグループは何の報酬もありませんが、2番目のグループにはパズルが解けたら報酬を与えます。
そして、結果を見ると報酬をもらった方ははやくパズルを解くことはできましたが、再びパズルを与えても報酬がなければやりませんでした。
しかし、報酬のないグループは何回もパズルをやり続けたそうです。
報酬のないグループにとってパズルを解くこと自体が報酬だったのです。


Appleデベロッパーズカンファレンスで開発者がお金を稼げるようにApp Storeを作ったりiAdという広告システムを作ったりしていると語っていました。
しかし、iPhoneのソフトを作っている人たちはそれ自体が楽しいからやっているのであって、お金儲けとしか見れなくなったとたんに興味を失ってしまいます。
その証拠に何人かの有名なデベロッパーがiPhoneのソフト開発をやめてしまいました。


こういうことを言うとエンジニアの戯言だとか、お前はビジネスをわかっていないとか言われるかもしれません。
しかし、過去を振り返ってみると世の中を変えるような産業はどのように生まれたのでしょうか。
自動車を最初に作った人はお金儲けよりも車を作ることが好きだったから困難な自動車開発に挑戦したのだと思います。
PCの成り立ちも最初はホームブリューコンピュータークラブというシリコンバレーにあった同好会が出発でした。
同好会のメンバーはみんな趣味でPCを組み立てていた人たちで、自分だけのコンピューターがほしいという一念でハードやソフトを作っていました。
(このあたりはスティーブンレビーのハッカーズを参照。)
これもコンピューターを作ること自体が報酬だったのでしょうね。


もちろん人間かすみを食べて生きてはいけないので、お金を稼ぐ必要があります。
しかし、お金のことばかり考えていると考え方が短期的になり視野が狭くなってしまいます。
その結果、今の企業は人々のやる気や想像力を殺すことばかりをやるようになってしまいました。
(Appleデベロッパーの創意工夫を邪魔するように。)
これからはビジネスに関わる人がみんなハッピーになる組織形態が必要なのではないでしょうか。
それはNPO的な組織なのか、フリーランス集団的なものなのかよくわかりません。
しかし、その中では働くことが楽しくて、新しい発想がどんどん出てくるような環境です。
そんな社会で生きていければいいなと思いますね。


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