未曾有のIT不況で思うこと

今、IT業界は未曾有の不況に直面しているようです。
私のまわりでも全く仕事がないエンジニアが結構います。
しかし、いまや企業も個人もITなしには考えられない時代になっています。
従って仕事はあるはずなのになぜこうなってしまったのでしょうか?


その一つの理由をJEITAが出している日米IT投資の比較から推測することができます。
この資料から次のようなことがわかります。

  1. 日本の公共部門と製造部門でIT投資額が低い
  2. 日本の労働生産性が低い
  3. 日本のITエンジニアはスキルが不足している

アメリカを基準として考えているので仕方がないのかもしれませんが、私の実感とも合っている感じです。
公共部門はあまり仕事をしたことがないからわからないですが、製造業はそうだろうなと思います。
まず、言葉は悪いですが、製造業関連の会社はケチです。
その割に要求が厳しいので私の知っているIT企業でもやりたがらないところが多かったです。
またハードで稼いでいる業界なのでソフトウェアやサービスなど形のないものにお金を払いたがらない傾向にあります。
今は少しは変わっているのでしょうが、この統計を見るとやはりと思ってしまいます。


次の日本の労働生産性が低いのは会社が社員を解雇できないことが原因ではないかと思います。
私が経験したシステム開発で顧客からの要望でいつも言われるのは業務フローや操作感は変えないでほしいということでした。
新しいシステムをいれるということは業務フローも変わるということです。
しかしユーザーは自分のやり方を変えたがりませんでした。
これがアメリカならパッケージソフトを入れて業務フローもドラスティックに変えてしまいます。
それに伴って人の入れ替えもするので新しいシステムをすんなり入れることができるのだと思います。
心情的には人を切るというのは日本人はすごい抵抗感があるからなのでしょうが、それがこの労働生産性の数字に出てきているのではないでしょうか。


またITエンジニアのスキル不足がボトルネックになっている点ですが、若い人がこの業界に希望を見いだせないからではないでしょうか?
私もこの業界に入ったときはやる気があっていろんな勉強を自分からやっていました。
そのうち会社で私しか知らないことが多くなって、あいつが知っているからと仕事をどんどんまわされるようになりました。
その割には評価は同じでスキルアップをやっていない人と変わりませんでした。
スキルアップすればするほど苦しくなるというジレンマはこの業界独特のものかもしれません。
私の経験した会社の問題もあったのでしょうが、業界全体としてその傾向にあるようです。


ある就職活動をしている学生向けの本でIT業界のことを書いたものを読んだことがあるのですが、
その中でIT業界は派遣が主なビジネスモデルなので待遇が悪いと書かれていました。
確かに大手以外はほとんど人だしのビジネスになってしまいました。
こんなの読んだらやる気のある学生はこの業界にはこないでしょうね。
こんな業界になった原因は日本社会がリスクのとれない社会になってしまったからだと思います。


日本の法人税率は世界でもかなり高い部類に入ります。
本当だったら内部留保できる儲けも全て政府にむしり取られてしまうので新しい投資ができません。
(そのお金を給付金というばかなばらまきに使っています。)
銀行は新しいビジネスには融資はしません。
融資するにしても担保と社長の個人保証を求めてきます。
株式公開という方法もありますが、これはごく一部の企業にしかできないことですし短期的な業績で判断されるので技術を開発する企業など長期的に考える必要のある企業には向いていない資金調達方法です。
企業は契約するとき資本金や従業員数を聞いて、小さい実績のない会社だと思うとどれだけ商品がよくても取引しません。
こんな社会で起業しようなんてばかばかしくてまともな人だったら考えないでしょうね。


起業するにしても政府や大企業にくっついて仕事をもらうという形態に落ち着くのでしょう。
それに人だしビジネスだったら月々固定でお金が入ってくるのでリスクがありません。
人は安易な方に流れがちなのでしょうね。


結論として、高い利益を生み出す人がいないから不況になったということではないでしょうか。
既存のビジネスは労働生産性をあげ、同時に利益の高い新しいビジネスを起こしていくということをやっていないから不況になってしまっているのだと思います。
いまだにその方向に日本が変わる兆候はみられないので不況はしばらく続くでしょう。
この中でどうやって生き残っていくかそれぞれ考えなければいけないと思います。